ブッシュ : 映画評論・批評
2009年5月19日更新
2009年5月16日より角川シネマ新宿ほかにてロードショー
ブッシュの物語とはブッシュが生きたアメリカの物語のことである
本作の主人公、ジョージ・ブッシュとは誰か? もちろんアメリカ合衆国前大統領のことであるには違いないのだが、果たして本当にそうか。同じく大統領でもあった父親からの信頼は薄く、できのよい弟に常にコンプレックスを抱き続ける金持ちの出来損ないの息子。本作ではまず、そんなブッシュの人格形成期の姿が描かれるのだが、たとえばそのことによってブッシュを笑い飛ばすなんてまったくばかげている。
アメリカ合衆国の大統領なんて、誰がやったって失敗するに決まっているのだ。大統領は、失敗するか、失敗させられるか、何もしないかというこの3つのどれかを選び続けるしかない。そんな決定的な前提が、この映画にはある。逆に言えば、アメリカはそれほど大きなパワーを持ち、野望を持ち、愛と憎しみにあふれ、喜びと悲しみが渦巻いているということである。そんなものをコントロールできる人間などいない。そうではなく、その巨大な渦巻きを体現できる「個人」として、大統領はいるだけだ。
つまり、ブッシュの物語とはブッシュが生きたアメリカの物語のことである。20世紀後半、そして21世紀。我々の世界で何が起こって人類が何をしたのか、その絶望的な歩みがここに描かれている。この映画を見れば、いくらブッシュを笑いものにしたところで、何の解決にもならないことがわかるだろう。
(樋口泰人)