「スパイアクションとしても、ラブロマンとしてもイマイチ。演技は良いのだが。」シャンハイ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
スパイアクションとしても、ラブロマンとしてもイマイチ。演技は良いのだが。
抗日レジスタンスがメインになっていてむやみに中国人を殺戮する日本軍のあくどさが際立つ印象の作品となっていました。なかでも、劇中で抗日ゲリラが語る言葉に、南京のように上海も虐殺されると断定している台詞が出てきます。そういう点で、本作は日本を戦争か外国として断罪する国策作品ということができます。こういう作品が量産されることで、中国ばかりかアジア全体に、いつまで経っても日本の戦争犯罪が断罪されることになりかねないでしょう。本当に南京市民を虐殺したのなら、謙虚に反省すべきでしょうが、やってもいないことを決めつけられて断罪されるのは、日本人として許しがたいところです。
当初渡辺謙は、本作への出演を断るつもりでした。そのためか、演出側は、渡辺の演じたタナカの最期を封じ、蛇足ように復活してくるシーンを付け足しました。まるで主役におもねるのが見え見えなエンドシーンだったのです。それを含めて、やはり出るべきではなかったと思います。
物語の舞台は、日本軍による米ハワイ真珠湾攻撃直前の1941年の中国・上海。最近の中国の歴史ものは、セットのリアルティと規模が凄いのです。上海の街。妖しいまでのきらめき、むせ返るような空気感。国際色豊かな人々…。本作でも当時のままの市街地が再現されています。しかも、『孫文の義士団』同様に、奥の奥の込み入った路地まで丁寧にセットされているのです。セットはロンドンとタイで撮られたそうですが、実際に戦前の上海という街はこうだったのだろうと思わせる雰囲気が漂ってきます。これにアジアの名だたる名優が、力演するわけですから、雰囲気としては申し分のない仕上がりでした。加えて、当時の上海は、日本や欧米列強などさまざまな勢力が入り乱れて活気に満ち、各国の情報機関が激しい情報戦争を展開することで「魔都」と呼ばれていました。映画の舞台としてはミステリアスな意趣に包まれてうってつけの舞台といえるでしょう。
冒頭米国諜報員コナーが何者にか忙殺されます。同僚で親友であった情報員ソームズは現地に赴任し、友の真相を知ろうと調査に乗り出します。
作品の宣伝では、スパイアクションとしてPRしていますが、スリリングな描写は少なく、関係者への事情聴取に明け暮れるは、刑事ものかと見まごう乗り。まるで犯人捜しのサスペンスの前振りのようで、いささか眠くなりました。
途中に、ソームズが日本軍の軍事機密を奪おうとドイツ将校の夫人と接近して、情報を撮影したり、逆に抗日ゲリラが情報網を屈指して、日本人将校を暗殺したり、緊迫する場面はあるのですが、イマイチ盛り上がりません。
なかでも不満なのが、ハワイ真珠湾攻撃の機密情報がクライマックスになっていないことです。コナーの殺害を調べていたソームスは事件の黒幕にタナカが関与していることを突き止めます。そして、コナーが調べていたのが日本艦隊の所在であり、上海の港に停泊していた空母「加賀」、忽然といなくなったこを突き止めたことが殺害の理由だったようなのです。
それを知ったソームスとタナカの間で激しい情報戦争となるはずなのに、物語はあっけなく日米開戦に突入します。しかもタナカは、開戦の機密情報は知らされていなかったとソームスにいうのです。これには興ざめしました。
二人が激しくぶつかるのは、コナーとタナカの共通の恋人だった娼婦のスミレの奪い合い。ソームスはスミレの身柄を押さえれば、コナーの殺された理由が分かるものと躍起になっていました。タナカはタナカで、スミレに未練があて探していたのです。そこに、スミレを人質にしてタナカと取引したい抗日ゲリラの思惑もあり、三者三様の事情がスミレの奪い合いニアミスするラストは、激しいアクションを取り混ぜ見せ場にはなっていました。でも、スミレを押さえてどうなるのよという疑問はぬぐえなかったです。
さらに、ラブロマンとしてもイマイチな心象となりました。
ソームスは、冒頭タナカの紹介で、裏社会を牛耳るランティン(チョウ・ユンフア)に接近します。そして、その妻アンナに心ひかれます。魅力的なアンナは抗日組織と通じているらしく、ソームズは避けようもなく、陰謀の渦に巻き込まれていくわけです。スパイと抗日運動を題材にしたラブストーリーの趣をもたせていました。アンナとソームズの関係がどうもすっきりしないのですね。夫に嫉妬されるまで接近しながらも、最後まで一線を越えませんでした。なぜなんだろう?
タナカを演じる渡辺謙も含め、日米中のスターをそろえた顔ぶれが豪華ではあります。登場人物のキャラは、際だって演出されています。本当に、同じような立場の実在の人物がいたようなのです。ということでミカエル・パプストローム監督は手堅い演出ぶりで、脚本が惜しいと思います。
ところで本作は、プロデューサーのマイク・メダヴォイの意思が強く反映されているようです。「シャッターアイランド」「ブラック・スワン」など数々の話題作を手がけてきたメダヴォイは、なんと映画の舞台と同じ41年上海生まれ。この街に特別な思いを抱いているに違いないことでしょう。