ロルナの祈り : 映画評論・批評
2009年1月20日更新
2009年1月31日より恵比寿ガーデンシネマにてロードショー
犯罪に手を染めた若きヒロインが到達する神聖なる境地
ある種の極限状況に陥った登場人物に手持ちカメラで肉薄し、彼らの行き着く先を見すえてきたダルデンヌ兄弟。新作「ロルナの祈り」は息苦しいほどの緊迫感がみなぎっていたこれまでの作品とは異なり、緩やかなタッチで物語が進行する。その一方で主人公の感情の振れ幅は「ロゼッタ」「ある子供」の少年少女よりはるかに大きく、しかも極めて複雑な軌跡を描いていく。
主人公ロルナはショートヘアが似合う端正な顔立ちをしているが、溌剌とした生気の乏しいヒロインとして登場する。それもそのはず彼女は闇ブローカーの手引きでベルギー人青年と偽装結婚したアルバニア移民で、れっきとした犯罪の加担者なのだ。その残酷な犯罪計画が仕上げの段階に差しかかり、ロルナの心に迷いが生じる。混乱の中で、走り、叫び、裸体をさらし、まさしく人間らしく“生まれ変わっていく”彼女の一挙一動から目が離せなくなる。
そして中盤過ぎ、衝撃的な転換点を迎えるこの映画は、ラブ・ストーリーとして驚くべき展開を見せる。もはやこの時点でロルナが愛した青年は存在しない。それでも彼女は、初めて知った愛とともに歩むことを決意する。狂気すれすれの極限状況の果てに彼女が達する境地は、過去のどのダルデンヌ作品よりも深遠にして神聖だ。やがて安らかな眠りに落ちていくロルナは、いかなる夢を見るのか。まるでお伽話のような終幕に身震いしつつ、大いに想像力を働かせてほしい。
(高橋諭治)