劇場公開日 2010年12月11日

「村上春樹と「喪失」」ノルウェイの森 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5村上春樹と「喪失」

2022年7月11日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ストーリーにいくら忠実でも感動に至らないのだと思います。
2010年。監督は「青いパパイヤの香り」のトラン・アン・ユン(ベトナム人)
村上春樹の「ノルウェーの森」は、
1000万部以上売れたそうです。
村上春樹の作品(エッセイを含む)の魅力は、引用にあると思います。
フィッツジェラルドの「華麗なるギャツビー」やサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」
を知ったのは村上春樹の著作からです。
そしてその本を読み、ギャツビーはレッドフォードの映画を観た。
音楽もそう。本に出てくる音楽は探して聴いた。
jazzバー(昼はjazz喫茶)を20歳から30歳まで彼が経営してた話しは有名。
伝説のjazzバーと、言われている。
毎朝、ランチのコロッケを100個以上手作りしていた、キャベツの千切りも山ほど。
音楽・・・彼はjazzのみならずクラシックにも造詣が深く、オペラにも詳しい。
ギリシャやイタリアに転々と暮らしてた頃のエッセイでは、町のオペラハウスに
ふらっと入る記述が多かった。
彼の本には村上春樹の芸術への理解と造詣が深く投影されている。
そこを映像化するのは、まず不可能でしょう。

映画は、確かにこんな粗筋でした。
私は本を読んだ時、直子さんが、なんとも厄介な女性に思えました。
精神を病んだ直子は自分で自分をコントロールできない。
彼女の我儘を「もちろん!!」
と、即答して叶えるワタナベ。
病的なキズキや直子に較べてワタナベは健康すぎる肉体と精神を備えている。
しかし周囲の人間(カジュアリティーズ=犠牲者たち)は、死を選ぶのです。
村上の著作は死の影がいつも慣用句のようにつきまとう。

映画は美しい自然描写・・・緑が目に眩しく。
ワタナベが直子の死から受けたショックから立ち直るべく、彷徨う冬の海辺の岩場。
とても詩的で秀逸です。

この映画の収穫は松山ケンイチの美しさでした。
演技も、ワタナベの捉え方も良かったと思います。
彼の精神の強さ、それは同じくワタナベの強さで、
だからこの映画は観るべき映画になった。
そう思います。

琥珀糖