「原作との差異を痛感してしまう」ノルウェイの森 古元素さんの映画レビュー(感想・評価)
原作との差異を痛感してしまう
映画と小説が異なる作品は多い。だがこれは、原作に忠実に作ったけれど、一致していない部分があるように見える。だからこそ疑問点がいくつか残るものとなった。女性陣の雰囲気と、ラストシーンが顕著だ。
まず直子。原作に描かれていた、少女のようなか細さや繊細さが薄かった。吠えるように泣く姿は、私の思い描く直子と異なっていた。だがそれによって、原作でいまいち掴めなかった、彼女が「自らが心底愛していた男性とは交われなかったのに、その親友との行為にとてつもない快感を覚えたこと」苦しんでいたと分かった。その点に関しては良かった。
続いてミドリ。彼女の奥底に潜む闇と、それを繕おうとする強さコントラストこそが彼女の魅力であると私は思っている。だが、この作品では彼女が最初から謎めいた繊細な少女に見えてしまう。水原希子が細くて色白なのも相まってだろうか。「幸せになりたいの」から「抱き締めて」の下りにはミドリらしさを感じられたが。
そしてラスト。原作では直子の死を悼みつつ、導き合うように、不思議に、レイコさんとワタナベが一夜を共にする。原作では、あの何とも形容しがたい雰囲気に魅了された。だが映画ではまるで、レイコさんがワタナベに自らの女性性を覚まさせて欲しいと懇願するように見えた。ただの性行為のように見えたのだ。
ワタナベがミドリに鳴らす電話の下りもいまいち。原作では、時系列がいつなのか、ワタナベが本当に何処にいるのか、全く分からない状態であった。その謎について様々な論文や解説サイトが生まれているのも事実。ただ映画だと、否、映像と音声で伝えられるからこそ、その謎が少し明らかになってしまうのが残念。個人的にはワタナベが数十年後に電話を掛けるのかと考えていたので何とも。
酷評をしているが、この作品で良かった点もある。ワタナベの演技だ。あれはもう松山ケンイチではない。ワタナベトオルであり、若かりし頃の村上春樹だ。そう思わせてくれる彼の演技に天晴れ。
そして音楽。原作にも映画にもマッチする音楽に酔いしれた。映画のサウンドトラックを購入したのは初めてだ。
登場人物それぞれの悲しみ、苦しみ、それを乗り越えて、強くも弱くも生きること。これは映画にも原作にも通ずることである。肝に銘じて生きていきたい。