60歳のラブレター : インタビュー
本作で描かれる3組の男女のうち、野心的なサラリーマンの橘孝平を演じた中村雅俊に話を聞いた。仕事一筋で家庭を顧みず、気が付いたら妻や娘との絆はバラバラになっていた……そんな孝平を演じる上で感じたことや、役柄への思いを語ってもらった。(取材・文:平井万里子)
中村雅俊 インタビュー
「人生には、陽の当たる場所を歩くときと日陰を歩くときがある」
――脚本を読んでどこに惹かれましたか?
「例えば妻の病気が発覚して、今夜が山で……という展開も、言ってみればよくある話じゃないですか。でも『同じような食材を使いながら、こんなに美味しく食べさせてくれるとは!』と心を打たれました。3組の物語にすごくリアリティがあるので、6人の誰かに自分を投影させる人も多いと思います。中でも僕がドキッとしたのが孝平の『背中を押されて生きてきた』というセリフ。『俺がいたからこの家は……』と驕っている男性も、この映画を見ればきっと奥さんの大切さに気づくはず。脚本家の腕を感じましたね」
――脚本家の古沢良太さんも深川栄洋監督も“団塊ジュニア”世代ですよね?
「(古沢さんは)『ALWAYS 三丁目の夕日』を手掛けた脚本家だと聞いていたので、僕ぐらいの歳かと思ったら、そこらへんのあんちゃんで(笑)、ビックリしました。深川監督は、自分たちの親の“像”を客観的に見ている部分もあったようで鋭い指摘もありましたね」
――孝平は仕事一筋で家庭も顧みず、外で浮気するという、なかなか共感を得難い役ですが。
「妻の目線で見れば『許せない』と思われるんでしょうね。でも、精神的に認める部分はあります。仕事一筋は“男の美学”だし、愛人は作れないけど、女性にはモテたいみたいな(笑)。最初から優秀な夫でいられるわけではないですしね。でも離婚を決めてからの孝平の人生は下り坂でドン底まで落ちる。だからとことんみじめに、メリハリを出せればと思いながら演じました」
――特に若手社員に出し抜かれる場面は見ていて切なかったです。
「彼のように『自分はベテラン』とあぐらをかいている人もいますが、才能に年齢は関係ない。僕らの世界だってそう。若い世代はみんなライバルですよ。長くやってることの重みもあるから、彼らを納得させるものを見せないと。そう言いながらも、若い人の方が才能があったりするので、おちおちしていられないですね(笑)」
――自分たちの世代を象徴する言葉は何でしょうか?
「“強がり”かな(笑)。今の若い人たちはみんな仲いいじゃないですか。でも僕らは、自分の道を行く一匹狼タイプが多くて『アイツにだけは負けるもんか』というライバル意識むき出しでした」
――そんな団塊世代なりの“青春”が描かれているのも映画の見どころだったりしますが、中村さんにとっての青春は?
「人生には、陽の当たる場所を歩くときと日陰を歩くときがあるけど、大切なのは“歩き続けること”。この歳まで役者をやりながら毎年欠かさずツアーをやってきたことが、僕にとっては太陽を燦々と浴びてきた“青春”です」
スタイリスト:奥田ひろ子(ルプル)
衣装協力:リチャード ジェームス/ロンナー