「現実の方がよっぽど残酷」ウォッチメン 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
現実の方がよっぽど残酷
「罪の無い何百万人が死んだって
残りの数十億人を救えるんだったら良いじゃないか」
オジマンディアスはそう言ってニューヨークの人々を大量に虐殺する。
酷い話であるが、
これはまさに第二次世界大戦での日本への原爆投下の暗喩であり
戦争終結の為、被害拡散を防ぐ為にした事だというトルーマンの言い訳と同じだ。
(原作コミックではその件への言及個所も多い。)
もう現実に起きちゃっている話なわけで。
現実の方がよっぽど残酷なわけで。
こんな残酷な正義がまかり通っている現代で
どんな正義のヒーローを描けば良いのですか?
というのがこの原作コミックのテーマであろうか。
原作者の目的は政治や社会批判ではなく、
素直に純潔な正義を信じていれば良かった時代と違って、
今のヒーロー像はこうなりますよって事が言いたかっただけだと思う。
そもそも、現代の正義って何ですか?
読者の望むヒーローって何ですか?
ヒーローなんて望んでいないんじゃないですか?
って事が言いたいのだと思う。
--
映像化不可能といわれたコミック「ウォッチメン」、
ザック監督が果敢に挑んだわけだが…。
映像化にあたって
本当に残酷な部分…ニューヨークの惨状などの描写は避けた印象がある。
メジャー作品として世界に配給されたのだからそれは避けて当然なのかもしれないなあとも思う一方で、
その部分をサラッと流せるザック監督がちょっと怖いとも思うんである。
(原作のイカ爆弾は話の核だからなあ。)
その他、原作とほんの少し違っていて気になった点は
異端のヒーロー、ロールシャッハだろうか。
原作でも映画の中でもパラノイアと呼ばれているロールシャッハ。
「ウォッチメン」の中で唯一彼は自分の信じる正義を貫く昔ながらのヒーローだが、
原作では
悪と善の対立でしか考えないロールシャッハの二元論は、
一種の現実逃避だとも言っている。
そういう二元論では問題が解決しないことは、今の世の中誰もが薄々分かっている。
映画にはこの「現実逃避」というセリフは無い。
ザック監督はロールシャッハ的な人物が好きなんだなあと思う。
「300」の主役は狂気と紙一重の正義を貫き、
「カフールの伝説」にも正義を貫く老英雄が出てきて、
「エンジェル ウォーズ」では妄想の中でも自分の正義を貫くんである。
パラノイア的正義を愛するザック監督が、私はちょっぴり怖い。
--
映像化してより際立ったのは
サリー・ジュピター(初代シルクスペクター)であろうか。
最早、正義なんてよく分からない殺伐とした世の中で、
サリーの不条理な愛がひときわ光る。
サリーがブレイクの写真を指でなぞる所が良かった。
--
(追記)
久々に観かえしたら、やっぱりもの凄くよかった!!
コメディアン、ロールシャッハ、Dr.マンハッタン、ナイトオウル…
それぞれの壮絶な負け戦を、ザック監督は全力を傾けてカッコ良く描く。
青いスッポンポンことDr.マンハッタンの哀愁…。
ひとりCIAことコメディアンの純情…。
カッコ良く描くことが、ザック監督のこの作品への愛なんだなあと思った。