「それでも時計の針は回り続ける」ウォッチメン MOVIE EATERさんの映画レビュー(感想・評価)
それでも時計の針は回り続ける
昔も、今も、そして未来永劫・・・人間は常に「歴史」の中で生きている。私たち平凡な人間はそんな「歴史」の中で周囲の環境に流されるまま生き続けている。
そんな、「歴史」を動かせるのはだれか?答えは簡単だ。体力、知力、権力、財力、暴力などの「力」のある者のみが歴史を動かすことができる。彼らが歴史を動かしたいのはそんな自分の力を周りに誇示し、自己を証明したいからだ。
それはこの作品に登場するヒーロー達にも言えることだろう。物語の冒頭に登場するヒーロー「コメディアン」は道徳的なヒーロー活動と称して自分より弱い人たちを貶し、いたぶっては自分のサディスティックな欲望を満たしていた。顔のない男「ロールシャッハ」も自警活動をすることで自己陶酔しどんな形であれ「ヒーロー」としての自分の人生を周囲に証明したかったのだろう。
自分の歪んだ正義を証明するために計略を練り、都市を破壊した「オジマンディアス」もこの部類の人間だ。
しかし、彼らの「力」が証明され歴史が歪められてしまったとしても、「時間」は流れ続ける。
それをマンハッタンは知っていた。そう、どんなに「力」で残酷に世界が歪められてしまったとしても、人々の中で忘れ去られ時間がたてば元に戻されてしまう。意味のないことなのだ。
そんな流れる時間の中で一つだけ「奇跡」があるとするならば、私たちがこの世に生まれ出てきたことだろう。人と人とが出会い、愛し合い、そんな奇跡の連続で生まれ出てきたのが、今ここにいる私たちなのだ。そして、私たちが今まで生きてこられたのもある意味奇跡かもしれない。
そんな世界の中で「力」とは意味がないものなのかもしれない。もちろんこの作品のヒーローのようなスーパーパワーなんて持っていたとしても全然意味がないかもしれない。
この作品はヒーロー物だが、ある意味ヒーローを批判している作品だ。スーパーパワーなんてあったって意味がない。そんなものがなくても僕たちは奇跡を起こすことができ、その奇跡を喜ぶことができるのだから。