「クリスティの恋愛小説」華麗なるアリバイ Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
クリスティの恋愛小説
ミステリというと、男性が好むものと思いがちだが、ハードボイルドやアクションではない本格ミステリは、どちらかといえば女性の方が好きなはずだ(「火曜サスペンス劇場」的な2時間の推理ドラマの視聴者はおば様たちが圧倒的に多いではないか)。当然、世界中に人気の女流推理作家がたくさんいる。そしてそれらの頂点に達しているのが、ミステリの女王アガサ・クリスティーだ。クリティーが世界的に人気のあるのは、もちろんトリックの巧妙さはさることながら、登場人物の心理や恋愛、そしてライフスタイルを詳細に描いていることにある。殺人事件がなくても、文学として楽しめる作品が多くある。そんなクリスティー作品の中でも、ファンの中では恋愛小説として楽しめると定評の『ホロー荘の殺人』が本作の原作だ。
クリスティーは『ホロー荘の殺人』で、エルキュール・ポアロを登場させたことを後悔しているという。その希望どおり(?)本作に探偵は登場しない。舞台を現代フランスに置き換えて、スタイリッシュな(女性好みの)ミステリとして仕上がっている。
郊外の屋敷に集まるゴージャスな人々(実際のキャストもゴージャスだ)。プールで泳ぎ、狩猟やディナーを楽しむ。憧れの上流階級のライフスタイルにうっとりとする。しかしそこに集まる人々は、それぞれがそれぞれの事情や情事を抱えていて、何食わぬ顔で付き合っていても、内側はドロドロな人間関係、これこそミステリの醍醐味だ。
前述のとおり、本作には灰色の脳細胞を持つ有名探偵は登場しない。お腹の弱い警部さんが、果敢に一筋縄ではいかない容疑者たちにアタックするも、今ひとつ手がかりがない。そんな中、登場人物のそれぞれがそれぞれのアプローチで事件解決のために(あるいは解決させないように)奮闘する。
クリスティー・ファンとしては、もう少しそれぞれの心情を精緻に描いてほしかったし、クライマックスのアクションシーンは閉口するし、物足りなさはあるのだが、こうしてクリスティー作品が今でもなお映画化される喜びは大きい。過去にもう1本クリスティー作品を映画化しているボニゼール監督に、今後もクリスティー作品を映画化し続けてくれることを希望したい。