「イラク戦争渦中で活躍する天才爆発物処理員の苦悩と活躍、そして美化」ハート・ロッカー 葵須さんの映画レビュー(感想・評価)
イラク戦争渦中で活躍する天才爆発物処理員の苦悩と活躍、そして美化
2008年の映画。銃を使って命のやり取りをするような作品、主にスパイものが比較的好きなので(ジャック・ライアンやアメリカン・スナイパー等)、視聴を決めた。
内容は2004年のイラクバクダッド郊外で奮闘する爆弾処理班の日常を描いている。爆弾処理班にピントを当てた作品は見たことが無かったので(爆弾処理が話のクライマックスシーンで利用される作品ならスパイもの等で多数あると思うが)、新鮮だった。動きのない作品で退屈かもとも思っていたが、処理以外にも処理中の防衛やテロリストからの奇襲等もあり、終始緊迫感の漂う作品だった。
一言で結論を言うと、面白かった。作品内で数回描写される臨場感あふれる爆弾処理シーンや、テロに襲撃され味方を数人失いながらも撃退するシーンは退屈しなかった。ジェームズという天才肌で規律を無視した爆弾処理班班長の男が、サンボーンやエルドリッジと作戦の中で意思をぶつけ合い、徐々に対立から理解へと変わっていく様子が丁寧に描かれており、命を取られるかもしれない極限の現場で彼ら三人が状況に対応していく姿には強い共感を感じたし、ベッカムに対するジェームズの思いが垣間見れる展開からは、彼が子持ちなこともあるだろうが、彼も血肉の通った感情や正義感を持っていることをうまく表現できていた。
とはいったものの、最後の自宅に帰ったジェームズ、そしてまたイラクに爆弾処理班として再びイラクの郊外の道を歩んでいく背中の描写を見ていると、やっぱりプロパガンダ映画だな、と感じた。自分には、最後の描写がアメリカ国民に、戦争に派兵されることの正当性やカッコよさを印象づけているように感じたのだ。ググってみれば自分の直感的な視点とは違ってプロパガンダと言える理由を解説しているレビューも複数あるので、気になる人はググってみて欲しい。アバターと対比させて感じた人もいるようだ。そうは言ったが、自分はそもそもアメリカの戦争好きな所は嫌いでその影響を受けることは多分無いので、プロパガンダっぽい戦争映画をそうと思いつつ見ることにそこまでの躊躇は無い。そのような環境の中で足掻く市民の姿やそこで繰り広げられるアクションに興味を持っているからだ。