インスタント沼 : インタビュー
三木聡監督インタビュー
――電球商会は乱雑さの中に昭和の懐かしさのようなものを感じますね。
「骨董なので、昭和の物だったりもっと古い18~19世紀の物が多いですからね。その中には、学生運動のヘルメットをビンテージ物と称したヘルメットの束をぶどうの房のようにした物などもあります。これは実際は美術部が作ったものですが」
――皆で探しに行くツタンカーメンの占いマシンは、実際にあったものだそうですね。
「実はツタンカーメンの形ではなかったんですが、100円を入れると自分が将来結婚する相手の写真が出てくるというものでした。それが横浜の伊勢崎町の商店街にあったんです。確か1975年ぐらいで、当時中学生だった僕が友達とジャージを買いに行ったときに本当に100円で占ったんです(笑)。それをスタッフ総出で日本中を探し回ったんですが、結局見つかりませんでした。それとは別にツタンカーメンの形をした占いマシンの記憶があって、そっちを探すことにしました。
映画に出てくる『ゲーム機の墓場』みたいな所が実際に千葉の成田市にあって、そこにうちの美術部が探しに行ったんですけど、どんなに探しても見つからなかったんです。あきらめて成田空港駅まで帰ろうとしていたところ、『もしかしてエジプトのこと? エジプトって言わないから分からなかったよ』と言われて、もう一度見に行ったら広大な裏庭のブルーシートの中にあったんです!(笑)」
――まさに映画のままですね。
「あの設定は元々脚本に書いてあったんですよ。それをスタッフが本当に体験してきたのは面白かったですね」
――ハナメと母親の翠(松坂慶子)は、よく映画やドラマで描かれるような母娘ではないですよね。あの2人の関係はどんな意図で描いたのですか?
「物語の冒頭では、娘の方がしっかり者でお母さんはいい加減に見えますが、実はお母さんの方がしっかりしているんです。そういう関係なので、はじめのうちはハナメは動かずお母さんが自由に動き回っていたのですが、お母さんは寝たきりになって自由を封じられてしまう。するとハナメが行動を起こすようになっていき、最後にはハナメも自由になっている。そうやって母親との対比の中でハナメの成長が分かるんです。だから話の中盤にお母さんを動き回らせるわけにはいかなかったので、“娘に河童を見せようして池にハマり意識不明”という設定にしたんです(笑)」
――キャスティングもかなりこだわっていたそうですが、電球役に風間さんを起用することで彼に求めたものは何ですか?
「全体的に意味のない高揚感をテーマに描こうと思っていました。キャスティングの直前に風間さんの舞台を見に行ったんですが、彼は今でも身体のキレはいいし、セリフのテンションも高い。意味のないテンションの高さ、意味のない説得力のある電球のキャラクターは風間さんしか有り得ないと思いましたね」
――河童のエピソードは見事でしたね。
「とんでもないオチですよね(笑)。そこに引っかかってもらえると僕としても最高です」
――沼を移すという発想は、元々はバラエティ番組のボツネタだそうですが、実際沼を作るのは大変でしたか?
「相当大変でしたよ! あれは神奈川の三浦にある高校のテニスコートだった敷地なんですが、テニスコートぐらい地面に気を遣っている場所でも、意外と平らじゃないんです。だからどうしても一部に水が流れてしまう。その中で沼のドロドロ感をキープしなければいけないので、掘り方にも気を配りました。草もずっと前から周りに生えていたように見えるように、撮影の何日も前に草を植えなければいけませんでした。そういう土木作業は非常に大変で、本当にスタッフには頭が下がります」
――“インスタント”じゃないんですね(笑)
「全然違いますね。それを言われるとおしまいなんだけど(笑)、何日もかかりました」