「戦争を全く知らない人たちのための戦争映画」真夏のオリオン kerakutenさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争を全く知らない人たちのための戦争映画
いい意味でもよくない意味でも、
「戦争は遠くなったなぁ」と感じさせられた映画でした。
いまの60歳くらいの人たちが若いころ
「戦争を知らないこどもたち」といわれましたが、
30歳というのは、そのさらに子どもたちの世代
これは「戦争を全く知らない世代」を対象に書かれたドラマなのだ!
ということを確信した次第。
北川景子演じる倉本いずみは、祖父の倉本艦長(玉木宏)あてに届けられた
一枚の楽譜の意味を知りたくて、唯一の生き残りである
鈴木水雷員のもとを訪ねるところからこの物語ははじまります。
祖父の倉本艦長は激しい戦闘を生き残り、戦後も商船のしごとにつき、
祖母もいずみが小さい時は存命だった・・・なのに
いずみには、祖父の足跡がちょっとも知らされていなかったのです。
本篇にいく以前の時点で、
うーん・・と考え込んでしまいました。
戦争末期の日本不利な状況のなかで、なんと
13隻ものアメリカの軍艦を沈没させた軍功高き軍人だったのに、
そういうことって、たとえば父(倉本艦長の息子)をとおして、とか、
自分でしらべてみたりとか(資料はたくさんあるはず!)してもよさそうなのに、
楽譜がおくられてきてはじめて、祖父のことを知るなんて、
「おかしい」と思う反面、
「いやいや、こんなものなのかもね」とも思いなおしました。
太平洋末期の人間魚雷を搭載した潜水艦の映画は、
最近だけでも、「ローレライ」「出口のない海」と二本観ましたが、
潜水艦は、(セリフにもあったように)
そのつど指令を待たずに単独での判断ができる「自由」があること。
仲間をつぎつぎに失う、ということのないかわりに
作戦が失敗すれば、「一蓮托生」で、ともに命を失うこと。
など、閉鎖された空間の中での
シチュエーションドラマにつくりやすい設定なのですが、
この作品では、潜水艦の「外側」の映像も多かったです。
倉本艦長と米海軍駆逐艦スチュワート艦長との
おたがい相手の棋譜を読み合うような頭脳戦、
相手の裏をかく攻撃、人間魚雷回天の驚くべき使い方、など、
もともと戦略重視の原作でしたから、
船の位置や進路が重要になってくるわけです。
そのあたりはざすがに本を読むよりは分かりやすかったです。
イマドキの映画だから仕方ないんでしょうが、
戦争を経験した高齢者や
「戦争映画はこうでなきゃ」と思い込んでいる人にとっては
「ありえない映画」だと思います。
人間魚雷なんて究極の「自爆テロ」みたいなものですが、
当時だって人の命は大切だった、でもそれ以上に大切な
守るべきものがあると思っていたから
やむを得ず「回天」とか「特攻隊」が存在したわけです。
死ぬのも怖いし、死なれるのも辛いから、
美しさ潔さの装飾をして、「気持ちよく」送り出したわけです。
でも、このドラマでは、人間魚雷は「野蛮な兵器」で
(たしかにそうなんだけど)
倉本艦長はついに最後まで出撃命令をだすことはありませんでした。
今の感覚では、とってもまともです。
とにかく「戦争はよくない」メッセージが
現代の私たちの感覚で繰り返されています。
これからの戦争映画はみんなこうなっていくんでしょうか・・・
当時の艦長は、たいてい30歳前後と聞きますから、
キャストの実年齢とも近くけっして若すぎるキャスティングではないのですが、
さらさらヘアーの草食系男子ばかりのキャスティングにも違和感あり。
原作とは何もかもが違うので、いちいち指摘はしませんが、
つっこみどころはあちこちあって・・・
楽譜が敵艦の艦長の手にわたったのは「奇跡」だからいいとして、
海底何百メートルの潜水艦内のハーモニカの音が海上まできこえたり、
モールス信号や発光信号で伝わる情報多すぎっ!!
特に敵艦からの発光なんて、たぶん英語なのに、
「オリオンよ 愛する人を導け
帰り道を見失わないように・・」
なんて、光をピカピカするだけで、しゃべるスピードで伝わるなんて
なんなんでしょう・・・!?
私のメール打つ速さよりずっとずっと速いです。
敵といえどもお互いに敬意を払い、
終戦でノーサイドになったわけで、
攻撃をする必要もなくなった。
そこへもってきて、「真夏のオリオン」の詩は
このシーンにぴったりで、感動するポイントなんでしょうが、
あまりにご都合主義で、ちょっと冷静になっちゃいました。
全体的に、この映画、とても「おススメ」とは言えないのですが、
観終わってみると、玉木宏の倉本艦長像は、
むしろリアルかも?という気になりました。
たとえば「硫黄島からの手紙」の
栗林忠道中将も、(いろいろな資料でみるかぎり)
かなりおだやかな癒し系の人のようで、
渡辺謙のイメージじゃないんですよね。
食事の時間を大切にしたり、
極限状態でのおだやかな笑顔など、
有能な指揮官は、意外と玉木宏みたいな
ソフトな感じなのかもしれません。