「ハイブリッド脚本」ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ 吹雪まんじゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
ハイブリッド脚本
原作既読。
……というか本作、「ヴィヨンの妻」だけじゃないですよね?タイトルにある「桜桃」を始め、いろんな太宰作品をブレンドしたハイブリッド脚本といった印象。
太宰の世界観を映画として表現した作品としては非常に完成度が高く、映像から漂う乾いた諦めのような空気感までもが丁寧に演出されていました。特に印象的なのは、死にたい死にたいと言いながら戯言ばかり並べる夫・大谷と、苦しくとも前を向いて逞しく生きていこうとする妻・佐知との対比。滑稽でありながらどこか哀しくもあるコントラストは、太宰作品共通の世界観を見事に体現していたと思います。
原作には登場しなかった堤真一演じる弁護士も良いアクセントとなり、物語全体を単調にさせない構成に一役買っていました。
唯一の難点を挙げるなら……浅野忠信がカッコ良すぎること(笑)演技は申し分ないのですが、「ワンチャン更生ルート来る…?」と思ってしまう程彼の持っているオーラが強すぎて、どうしようもないクズ男としての説得力がやや薄れてしまった印象。この辺は「沈黙」でキチジローを演じた窪塚洋介あたりがやっても面白いかもしれませんね。
とはいえ、原作を大切にしつつも、映画としての語り口で太宰の世界をしっかり広げているのは本当に見事でした。
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