劇場公開日 2009年10月10日

「丁寧な仕事振りに驚嘆! 秋にぴったりの味わい深い映画」ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5丁寧な仕事振りに驚嘆! 秋にぴったりの味わい深い映画

2009年11月7日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

幸せ

松たか子ってこんな色っぽい女優さんだったけか。
映画を観ながら、そんな感想を抱いてしまった。
豊かな表情、抑制の利いた動作、落ち着きのある色気——
本作の彼女はとにかく魅力的。主役として映画をぐいぐい引っ張る。

浅野忠信も相変わらず良いですね!
彼が演じる作家は卑怯で卑屈で甲斐性なし。
周囲の人を自然と不幸に引きずり込む超ネガティブ男だ。映画に登場する女性達がどうしてこんな男についていくのか僕にはよく分からんが、何だか放っておけない魅力が、確かにある。

演技だけでなく、この映画はあらゆる部分が一級だ。
過剰な説明を避け、一瞬の表情・動作・構図で人物の関係性や思考を観客に「読ませる」余地を残した巧みな見せ方。
店内の照明の暖かみや、月明かりの艶やかさ。
戦後の街並みや人々を再現する美術の数々。
1カット1カットに至るまで抜かりがない。
そのくせ、演出はあくまでさりげない。
凄い。まさしく熟練の技だ。

高架下で、夫婦2人で桜桃を食うシーンが好き。
ごみごみとした街角が、2人きりの空間に変わる瞬間が美しい。

ベテラン監督の丁寧な仕事に唸らされる一品。
秋はこういう味のある映画が似合います。

浮遊きびなご