「素晴らしく文学的」ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ いずるさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしく文学的
とても知的な大人の映画でした。文学作品らしい様々な暗喩的行為が出てきます。原作は読んでおりますがこのような描写はなく、映画独自のものだと思います。それらの行為の意味を一々考えるのも楽しいでしょう。
まず画面の絵が素晴らしく美しいです。ありがちなストーリーですが、センスの良い絵でグッと映画に引き込まれます。
妻・さちが夫にささげる献身的な愛が見どころです。
ささげる相手である夫・大谷が妻に愛を感じていないことは無く、一等上等な愛を抱いているようです。
大谷は様々な女性で自らの寂しさを紛らわせていても、劇中、妻に「私が知らないことがたくさんあるのね」となじられた時「あなたが知らない私など、どうでもいい部分なのです」と言い、妻に見せている面が一番重要だと考えていて、他の女性たちとは一線を引いています。
生活面でお金を渡さない夫であったり、妻に着物をあつらえない大谷ですが、
他の場では大盤振る舞いをよくしています。
金の使い方が間違っているのではないか、と疑問に思うところですが、おそらく俗なものを妻に触れさせないようにしたかったのでは?と想像します。
妻に神聖や純真を感じていることと「大事にしているつもりなんだけどな」という台詞から合わせて考えると、かなり独特に大切にしているのではないでしょうか。
自分の一番大切なものを変えないように大切にしていきたいと思っていても、妻は自分を思うがために穢れていってしまう。
妻に神性を見た夫は自分のために妻をただの女に引き下ろしてしまったのです。
夫婦をめぐる恋模様は発展していきますが、二人の間に絶対的な愛があるせいかドロドロせずまるで純愛映画のように見れます。さらっとした見心地でした
しかし、文学的な描写にこだわりすぎて、
「分かる人が見なければ意味がわからない」という映画になっていると思います。
そこが私は好きなのですが・・・