劇場公開日 2009年1月10日

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「先ずは、贅沢な人物紹介のような内容だ!」チェ 28歳の革命 jack0001さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0先ずは、贅沢な人物紹介のような内容だ!

2009年1月16日

興奮

知的

難しい

物質的な豊かさだけを中心に据えた社会を続けるためには、搾取される人たちが必要になる。
空虚さを感じない社会を作るには、成功とは何か、豊かさとは何かを再定義しなきゃいけない。

スティーヴン・ソダーバーグ;Steven Soderbergh監督のコメントは本質とストイックさに満ちている。
20世紀最大のカリスマと称された男、チェ・ゲバラ;Che Guevaraに魅せられ、約7年間に及ぶ研究や関係者からのリサーチを行ったそうだ。
ゲバラ像を描くことに対して妥協なき姿勢を貫き、意義を成し遂げた作品に仕上がっている。

二部構成の前編である「チェ 28歳の革命」は、1957年頃の若きゲバラがキューバ入りし過酷なゲリラ戦の末、バティスタ独裁政権を打ち倒すまでの一連の事実を描いている。
ほぼ全編が進攻と戦闘のシーン、そこに1964年にニューヨークで行われた国連総会演説シーンが入り込む。
時系列を越えカットを交互に入れ替えつつ、パイ生地のように何重にも重ねて物語は浮き彫りにされる。
かつてメガホンを取った「トラフィック」に代表されるこの監督ならではなやり方だ。
ただし目まぐるしいカット割りと3つのストーリーを同時進行させた「トラフィック」の複雑さとは異なり、緩やかな流れの只中で大きな展開を待つ心境になる。
然程難解なストーリーではないから安心して観れるだろう。
実は手法よりもこだわったのは、主人公ゲバラをどう描くか?というごく当り前なテーマ。
題材としてこの偉人を扱うのは極めてレベルが高く、近づこうとすればするほど壁が高く険しい。
その為、リサーチした内容を重視し、なるべく脚色せず素のままな人物像を目指す方法だったという。

主演のベニチオ・デル・トロ;Benicio Del Toroの徹底した役作りが話題だ。
その内訳は、25キロの減量、参考資料の徹底的な読み込み、そしてモチベーション向上目的の音楽鑑賞(この俳優は音楽を利用することで有名)というフルコース。
どうやらブルース・スプリングスティーンの「マジック」、ザ・クラッシュの「サンディニスタ」、ビートルズの「ホワイト・アルバム」あたりを随分とへヴィ・ローテーションさせ撮影に臨んだらしい・・・ゲバラの写真がロック界のアイコンとして用いられている効果もあってのことだろう。

そんな彼が士気を高め望んだゲバラ像、それは静かに燃える蒼き炎のような印象だ。
質素で勤勉、冷酷であり物静か、情熱を放つ方向感覚が鋭い。
惨事や極限な状況で、その才気は魅力的に放たれている。
男としてあるべき条件のほとんどを備えた人のようだ。
例えばエンディング(実際あってもなくても影響のない些細な箇所、おそらく監督のこだわりなのだろう・・・)では、ゲバラの人物像を瞬時に頷かせるような下りがある(実際に観ていただくしかない)
リーダーとしての人格は、自分にも部下にも平等に厳しく、且つ愛情に満ちている。
当初はフィデル・カストロをリーダーとした反乱軍総勢82名で、8人乗りのレジャーボート「グランマ号;Granma」に乗り込み進攻した。
途中で政府軍の攻勢に遭いわずか12人に減少してしまう。
やがて忍耐と機知に満ちた能力を発揮し、常に学問を忘れず部隊を教育し、誠実さをもって多くの人々と接していく。
反乱軍は成長し約3年後に革命を成し遂げる・・・その中枢にいた人物がゲバラだ。

厳格さ故に必ずしも部下に心底受け入れられていたか?という疑問もある。
だが少なからず彼はリーダーとして支持されていた。
民衆への微笑ましさも忘れない。
その対照的なシーンも随所に散りばめられている。

第一部では、ゲバラ人物像とそのリーダーシップいうテーマがメインなのだろう。
続く第二部での、異なる角度の描き方にますます期待を寄せる。

チェ・ゲバラの哲学こそ、リーダーシップの極みである。

直接行動と理想を同時に描き、妥協なきまま貫く姿勢・・・常に前線に立ち自ら向かっていくシーンが多かった。
現代日本人が忘れてしまった再定義すべき何かだ。

jack0001