「心の扉。」扉をたたく人 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
心の扉。
名画座にて。
公開時に観逃したので、絶対に観たかった作品。
評判通りの素晴らしい作品だった。
つい先頃DVDで観た「俺たち~」シリーズでは
どうしようもない父親役を演じていたR・ジェンキンス。
とても同一人物とは思えない…すごい役者だ^^;
冒頭の表情ひとつとっても、凍りつく空気感だった。
今作のテーマは扉をたたく訪問者に対して、どんな
対応をする人間と米国の在り様を描いているのだが、
冒頭の彼は、まず他人を排する態度をとり続ける。
妻が亡くなり、生きる気力を失くしたか、仕事にも
習い始めたピアノにも、なんの活力も見出せない。
まったく哀れで憎々しい爺さん、という造詣では
イーストウッドの作品「グラン・トリノ」とよく似ている。
彼に活力を取り戻させたのもやはり異国人だった。
ひょんなことから自分の別宅に不法滞在していた
カップルと出逢い、彼らの保護に奔走する姿を描く。
誰とも関わらず、他人を拒み続けた彼が、青年の
持つジャンベというアフリカン・ドラムに惹かれ始める。
来る日も来る日も練習に励み、彼と公園で演奏しては
楽しみを見出しはじめる彼だったが…。
犯罪者ではない不法滞在者に対する米国の対応が、
9.11以降大きく変わったのは他作品でも描かれていた。
今作でもそれが色濃く描かれているが、それを通して
主人公が怒りや慈しみなど心の機微を取り戻していく。
どんどん感情的になる彼の表情が、これまた豊かだ。
ここでもいわれるが、私たち人間は無力だ。
だからこそ大勢の協力を受けて生き長らえている。
他人を受け入れることに憶病だった主人公が、
恐々と開けた扉の向こうには自分を救ってくれる人も
愛してくれる人もいたわけで、あ~そうだったのかと
気づいた時に、思いきり感謝の意を示すべきなのだ。
伝わるものは必ずある。
それがあのささやかなラストだと思いたい。
(人の心にズカズカと上がり込んでくれてありがとう。)