「家族を描いた映画」トウキョウソナタ masakoさんの映画レビュー(感想・評価)
家族を描いた映画
竜平は多分会社でも家でも権威丸出しで生きてきていたんだと思います。常に俺が偉いという上から目線。家族が揃った食卓も、父が「いただきます」を言うまでは誰もご飯に箸をつけられない。あー、うちにはない感覚だ。
そんな風だから、リストラされたことなんて、権威が丸つぶれになることなんて、とてもじゃないけど言えない。会社に行かないのに、毎日スーツを着て公園で食事の配給に並ぶ。ハローワークの列に並ぶ。その列がね、浮浪者だけじゃないんです。竜平みたいにスーツを着た人たちが沢山いるの。同級生の黒須に至っては、1時間に6回もアラームを鳴らせて、まるで仕事の電話がかかってきた風を装う。なんかその演技が痛々しい。言ってしまえば楽なのに、言えないのが男、なんでしょうか。
変にプライドは高いから、ハローワークで紹介される仕事には納得がいかない。管理職を望む竜平。いやいやいや、現実を見ないと。「あなたに何ができますか?」という問いに「なんでもできます。」としか言えない。そして家に帰れば、行ってもない会社のことを話し、まるで今までと何も変わらないような生活を送り続ける竜平。
私ね、うちが違うからかもしれませんが、竜平のような親がどうにもダメで。だって全然妻や子供の話を聞いてあげないんですよ。子供のためって言いながら、自分の言いなりにさせたいだけ。自分が絶対。アメリカの軍隊に入りたいっていう長男の希望を反対する気持ちはまだわかりますが、次男がピアノを習いたいっていうのに理由も聞かずに「ピアノはダメだ」って一言ですよ。どうして子供がやりたいって言ってることをやらせてあげようとしないのか不思議でなりませんでした。
子供の話もきちんと聞かずに手をあげるのとかもね、ちょっと私は許せない。
「そんな権威、ぶっつぶれちゃえ。」
まったくもってその通り。変に権威なんて振りかざしてるからいけないんですよ。
妻・恵の気持ちはすごい伝わってきましたね。なんていうのかな、つまらないよね、私何やってんだろう?って思うよね。人生変えたいって思うよね、ってすごく共感しちゃいました。離婚しちゃえば?と言う長男に「お母さん役は誰がやるのよ。」って言うんです。「お母さん」じゃなくて、「お母さん役」なの。
夫が権威丸出しにしてるのも諦めてるんです。だから配給に並ぶ夫を見ても、何も言わない。思ってることがあってもぐっと我慢、我慢。
だから後半、突然降りかかってきた危機もね、普通だったらおどおどしちゃいそうなところが、堂々としてるんですよ。それは今の生活から逃げ出したいという気持ちがあったからなんでしょうね。まぁこの辺の描写はかなりリアリティには欠けましたが、何か吹っ切れたように車を飛ばす恵が爽快でした。またティーチインの時に監督も自分で成功だと言っていましたが、恵の服装がすごくよかったんですよ。ずっと臙脂っぽい暗い色の服ばかり着ているのですが、海で朝日を浴びた瞬間、一瞬だけ明るく光るんです。
途中から家族がそれぞれ堕ちていって崩壊していくあたりはアカルイミライを彷彿とさせました。
そしてこのままみんな堕ちてバラバラになって壊れていってしまうのかな、と思ったところで、少しだけ、本当に少しだけ光が差し込みます。
健二のピアノの才能はちょっと唐突すぎるような気がしてしまったので、ラストの演奏シーンもあまり心には響いてこなかったのがちょっと残念だったかな。
痛々しいけど、それぞれみんなから伝わってくるものもあり、だからといって全体的に暗いわけではなくて、上手く笑いも取り入れられていて、完成度の高い作品だな、と思いました。