劇場公開日 2008年10月25日

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「イラクに限ったことじゃないはずだ・・・」リダクテッド 真実の価値 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0イラクに限ったことじゃないはずだ・・・

2021年8月21日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 オバマ大統領就任前に観たかった。愚策ばかりのブッシュ政権下の外交術には過剰なまでに憤りを覚えた21世紀。任期を終えてしまったら、米軍によるイラクでの蛮行映像にも冷静に接することができる自分に驚いてしまいます。戦争には正義なんてない。ただ善良な市民が殺されるだけのもの。観終わって数時間経つと、じわりじわりと戦争そのものへの嫌悪感がわいてきました。

 ブライアン・デ・パルマ監督が彼らしくない映像で、しかし、デ・パルマらしい主張が感じられる映画。「この映画はフィクションである」とことわっておきながら、イラクのサマラで行われた集団レイプ・殺戮事件の真相に迫ろうとした内容だ。映画人を目指すヒスパニック系の兵士サラサールはビデオダイアリーと称して戦地の映像を撮り続けていて、やがて重大な事件に巻き込まれていく・・・

 タイトルの“リダクテッド”とは、残酷なシーンや不都合なシーンを削除した“編集済み”の映像を意味するマスメディア用語。任務地へビデオカメラを持ち込む兵士が多くなり、インターネットの発展によって管理するのも難しくなったのであろう。過去の戦争においても隠したくなる悲惨な事件はあったことまで想像してしまいます。

 ドキュメンタリー・タッチの映像は兵士たちの微妙な心理変化も映し出し、人を殺してしまうことに何も感じなくなってしまう様子や、疑心暗鬼となり、テロリストが紛れ込んでいる一般市民全てが人間だと思わなくなる心が伝わってくるのです。特に無邪気な少年たちにも警戒心を抱くところは絶妙でした。

 中心となる検問所では英語とアラビア語で停止するよう標識があるのですが、全てのイラク人が読めるわけじゃない。そして、病院へ向かう妊婦が犠牲となり、人を殺してしまうという一線を越えてしまった彼らがでっちあげた理由で民家を襲う。主犯格の二人と、ビデオ撮影のサラサールや見張りに立つ良識あるマッコイなど、知らない俳優ばかりであることも自然な演技でリアリティを増している。

 残酷なシーンもあるし、目を背けたくなりますが、インターネット映像も凝った作りになっているため、臨場感を味わうよりも一般ネットユーザーとなって見ている気にもなってくる。しかし、戦争は現実に起こってるんだ!遠く離れた平和な地にいても、現実を受け入れ、戦争をなくすために何か行動を起こさねばならない・・・などと、いつものごとく言うだけ・・・

kossy