「90分がこんなに長いなんて・・・。」七夜待 いきいきさんの映画レビュー(感想・評価)
90分がこんなに長いなんて・・・。
★
長谷川京子主演の旅番組+世界ウルルン滞在記を
河瀬直美監督が個性的な演出でお届け。
タイにやってきた日本人女性の彩子(長谷川京子)は、
あるホテルに向かおうとタクシーに乗り込み、寝込んでしまう。
気が付くと辿り着いたのはホテルではなく森の中。
運転手マーヴィン(キッティポット・マンカン)に
危険を感じ逃げ出した先で、
フランス人の青年グレッグ(グレゴワール・コラン)に川のほとりで出会い、
彼が同居しているらしい
タイ人母子アマリとトイの住む高床式の家に連れて行かれる。
そこがどこなのかも分からず、言葉も通じず、不安で一杯であったが、
タイ古式マッサージに安らぎを感じ、
少しずつ彼らやタクシー運転手とも馴染んでいき、
その場所で七つの夜を過ごすことになる。
河瀬直美監督の作品で観たことがあるのは
カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した“殯(もがり)の森”だけで、
その殯の森は日本的でオリエンタルな雰囲気が
カンヌ審査員たちのツボを刺激したんだろうな、という印象で、
それ以外はイマイチで僕にはあまりピンときませんでした。
そのよかったと思えた映像の美しさも、独特の世界観も、
故郷の奈良を舞台していたことから出せていたのでしょう。
舞台をタイに変えたことで、
タイの街はよくある旅番組程度にしか見えず、
森にしても、美しいタイの自然というほどでもなく、
それほど魅力的な映像にはなっていない。
リアルでナチュラルな演技を引き出すためだったのか、
それとも、長谷川京子の演技力を見て、
この撮影方法の方が少しはマシになると思ったのか、
苦肉の策だったのか、
監督から俳優たちに与えられたのは、
その日撮影される予定の一枚のメモだけだという。
そのメモには互いの関係性もセリフもストーリーもなく、
行動だけが記してあり、俳優たちに全てを任せるというか、
丸投げな方法だったという。
その方法が成功しているかどうかは疑問で、
長谷川京子のナチュラルな演技を
少しは引き出せてるのかもしれないし、
訳も分からずに、ぶたれちゃうシーンなど、表情も、
出てくる言葉も等身大の彼女自身で、
同年代の女性には共感できる部分もあるのかもしれない。
でも、どう見ても行き当たりばったりの、
チープなドキュメンタリーに見えてしまう。
アドリブ要素が大きいとそれはそれで、
監督の意図を汲み取り理解し表現する能力も必要なわけで、
長谷川京子が泣いちゃうあるシーンで放ったセリフなんて、
何も考えていないようなアイドルが、旅番組やドキュメンタリー番組で、
一生懸命に求められてる言葉を捻り出したようなもので、
それでよしとしたのだから、監督も同じ様な考えなのか、
なんだか苦笑いするしかない。
彩子はタクシーの中で寝てしまい、気が付いたら森の中で、
運転手に恐怖を感じ逃げて、
森の中にいるフランス人に助けを求めて抱きつく。
いやいや、日本人ぽい人だったりしたら少しは分かるけど、
タイの森の中にフランス人だよ。
フランス人とは分からなくても、それはそれで、
怪しくて怖いんじゃないの。
フランス人が安全だと一瞬で感じ取ったのか、
それなら運転手も安全だと感じろよ。
初めからそんな感じで、その後の運転手とのちょっとした触れ合いも、
なんだかな。
登場人物たちについては詳しく分かるようなことは何もない。
それはそれで、彩子はどのような人物なのか、態度だったり、
ガムを噛んでいる様子や、マッサージには邪魔なネイルをしていたりで、
推測し、何故タイに来たのか考え、
フランス人はどうして母子と一緒にいるのかとか、
母子の父親はどうしていないのか、感じさせ、考えさせるだけで、
説明が全くないのはいいが、
読み取って楽しめるような作品にもなってないと思うし、
かと思っていると、いきなり説明しだしたりして、
もう、何がしたいんだか分からんのです。
言葉の壁があり話が通じず、いやちょっと通じて、
それでもうまく噛み合わない中で、
タイ古式マッサージを通しての触れ合いだったり、
僧侶という存在だったり、擬似家族のような団欒だったり、
ゆったりとした時間の流れ中で、自然に起きて、自然を感じ、
タイの街をぶらつき、何故か追いかけられ、
癒しがテーマのようではあるが、それも、スローライフや、ロハスの、
まさに上辺だけをすくったような感じしか受けず、
ある出来事が起こった時の、意味深な映像が、
やっぱりその程度なんだろうな、という印象を強くして決定づけてくれた。
長谷川京子は殆どタンクトップの状態なので、
目の保養になって何とか救いになると思うので、長谷川京子ファンには、
その点だけは楽しめるかなどと、
それぐらいしかオススメ要素が思いつかずに、
90分がこれほど長く感じた事はないような、僕にとっては、
あくまで僕にとってはだけど、非常に退屈な作品でした。