劇場公開日 2008年6月14日

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1000の言葉よりも 報道写真家ジブ・コーレンのレビュー・感想・評価

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5.0危険区域で撮影しているところまで踏み込んで撮影しているところが凄い!

2008年6月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 中東紛争をテーマにした作品や『ハンティング・パーティ』などの戦場写真家を扱ったフィションの作品も多々あるでしょう。けれども本物の緊迫感、臨場感には敵わないと思いました。

 この作品の凄いところは、ジブ・コーレンが危険区域で撮影しているところまで踏み込んで撮影しているのです。
 彼の残した作品とインタビューでも充分に成立する企画なのに、アビタル監督は敢えて危険を冒してでも、ジブ・コーレンの現場を捉えようとしています。なかには爆弾テロで多数の人間を無差別に殺したばかりのテロ主導者まで映像に入っていたり、弾丸が飛び交うなかのシーンもあって、ぐいぐいと引き込まれました。
 圧巻は、ジブ・コーレンを一躍世界的に著名にした路線バス爆破の写真。発表された写真以外に当時撮影した写真を用いて、現場がプロの戦場写真家すら戦慄したほどの地獄絵だったことが明かされます。
 当時の現場に派遣された警官、消防士全員の精神にトラウマを残し、その後入院やカウセリング治療を余儀なくされたほどの衝撃度だったようです。驚いたのは、百戦錬磨のジブ・コーレンですら、ここの現場では精神的にダメージを負ってしまい、この作品のための撮影がなければ、爆破事故があったところには二度と立ち寄らず避け通っていただろうと語っていたことです。
 タフと図太さがなければやっていけない戦場写真家であっても、人の子。時に制止できない現実から逃げ出したくなる時もあるわけなんですね。

 アビタル監督は、ジブ・コーレンを密着しつつ、彼の奥さんも登場させ、彼の日常やプライベートを語らせます。緊張した撮影風景の合間に、夫の無事を祈り続けている妻の気持ちを織り込むことで、ジブ・コーレンに親近感が出てきました。撮影シーンだけだと、ジブ・コーレンはスーパーマンに見えてきますが、妻や子供たちと寛ぐプライベートシーンがあることで、ああ彼もごく普通のハパさんなんだなと感情移入してしまいます。そんな幸福な家庭を顧みず、危険な撮影に嬉々として馳せ参じるところにドラマ性を感じました。あるとき戦場カメラマンが死亡したとの報道がされたときは、妻は青ざめ覚悟したそうです。なんと、そのとき死んだのは、彼の隣で撮影していた同業カメラマンだったそうです。本当に紙一重で生死が分かれてしまう仕事なんですね。

 そんな彼が、茶目ぽくアゲハ蝶にレンズを向けている写真は、東京での個展開催の時のもの。彼は2泊3日の強行軍で来日して、講演などのイベントをこなして帰国していきました。イベントの合間に平和な日本の風景や街角の人物を撮影するジブ・コーレンの姿も作品では捉えています。
 その顔は、イスラエルの紛争地帯でカメラを構えている緊張した顔つきとは、全く違うリラックスしたものでした。

 作品のコメントでもありましたが、現実主義のシャロン首相が脳卒中に倒れ引退し、イスラエルで民族派が台頭。それに対してガザ地区ではイスラム原理主義組織ハマスが実権を握るなど、対立が激化する様相にあります。

 ジブ・コーレンが東京で見せた笑顔を彼の住むイスラエルとパレスチナの地で見せる日は、やってくるのでしょうか。

 凄く引き込まれたドキュメンタリーでした。

●多様な価値観を許容しあえる宗教観が必要。
 ジブ・コーレンはまた様々な宗教の伝統行事や寺院を撮影することも好んでいるようです。彼の作品によって、改めてパレスチナという地は、世界の宗教の聖地がダブっていることを実感しました。同じカメラの中には、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地の写真がごった煮で納められていました。そのどれもが一神教であり、信仰において異教徒を否定する教えなのです。これでは戦争はなくなりません。片方の宗派が片方を殲滅するまで争いは続きます。
 これでは、果たして何のための宗教でしょう?多くの罪のない市民がテロで犠牲にあったというインタビューを作品の中で見るにつけて、一神教という形態の宗派の限界も感じました。
 この世界から宗教が原因となった紛争をなくしていくためには、それぞれがもう一段高い地球レベルから、そもそもの宗教のあり方を見直すことです。そして、各宗派に共通する価値観を取り出して調整していく教えが必要でしょう。それを強く感じました。

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