シャカリキ!のレビュー・感想・評価
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優秀なエースは、優秀なアシストがいて生まれる
映画「シャカリキ」(大野伸介監督)から。
自転車のロードレースは、チームとして、
ゴール寸前まで、誰かが風の抵抗を受け、
チームに一人しかいない「エース」の体力を温存させながら
勝たせる努力に徹する、チームワークの競技である。
だから「優秀なエースは、優秀なアシストがいて生まれる」
という表現は、自転車のロードレース独特の表現かな、
と暗闇の中で慌ててメモしたが、
実は、いろいろな分野で使えるフレーズであった。
「エース、ヒーロー、ヒロイン、主役、主演・・・」
分野によって、いろいろな呼び方があるが、
「アシスト、脇役、助演・・」などの表現もまた存在する。
スポットライトは浴びないが、必ず存在するアシスト役。
北京五輪で優勝投手となった上野選手のボールを、
痛みをこらえながら、黙々と受け続けた若い捕手がいたからこそ、
彼女は輝くことが出来た。そんな関係かな?と理解した。
エースの活躍を見るたびに、アシストしているのは誰だろうか、と
気になる50歳の私がいる。
PS.タイトルの「シャカリキ」の意味。
(俗)懸命になって何かに取り込むこと。しかしなぜか「語源未詳」
う〜ん、気になる。(笑)
とにかく自転車バカに納得!シャカリキな青春ドラマに仕上がっていました。
大野伸介監督のフレッシュな演出の冴えを感じました。
とにかく自転車のスピード感と主人公輝のシャカリキ度は、すごくよく表現できていたと思います。ロードレース用の自転車の速度は平地で70キロ、下り坂では100キロ近く出る場合もあるそうです。それをよくもまあロケ車で追いついて行けたものです。資料を見ると、時にカメラを自転車に乗せて撮影したこともあるようです。
若い出演陣とあいまってとてもフレッシュさを感じさせる作品だと思えましたね。特に主人公のテルの自転車バカぶりは、関西弁とマッチしてとても説得力がありました。
子供の頃から坂に遭遇すると駆け上がりたくなる衝動に駆られる心理とは、普通には理解しがたいものです。でも「坂や!」のひとことで、表情がキラリと変わる輝ならそうなのかもしれないと思わしめるところがありました。
実は、テルを演じる遠藤雄弥も相当な自転車マニアだそうで、テルと同じくBMXを所有し、ロケ現場にBMXで乗り付けるほどの自転車バカなんですね。
『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』の続編にぜひ出演してもらって、ママチャリと対決できないでしょうか。それくらい『ぼく駐』でメンバーがママチャリに乗って駆けるシーンが、頭に焼き付いています。シャカリキという点では、本作を上回っているかもしれませんよ。
本作では、原作といくつか変更点があります。
テルのキャラが無口で一途なところが、陽気で純な青年に変わっています。もうひとつ変更がテルのライバルとなるユタの変更です。
原作では、ユタはエースの嶋村と同じ亀高自転車部のライバルのひとりでした。けれども対決図式を明確にするために、ユタは亀高からライバル高校鳳帝高校に転校して、そこの自転車部のエースとして登場します。その結果、原作では市民レースで新たなライバルとなる牧瀬がカットされました。
これで、自転車バカのテルが、誰にも負けたことがない坂でユタに勝ちたい一心で、自転車部に入部し、なれないロードレースに打ち込むというストーリーラインがすっきりはしました。問題は、ユタと父親である亀高自転車部由多監督との関係。監督の指導方針に従えず転校したことになっていて、住居も別。たまに自宅に戻っているようだけど、指導方針の違いで、親子が別居してしまうほどの葛藤が描けていません。
両親が離婚して、母方についたという分かり易い設定がよかったのではないでしょうか。その葛藤にリアルティがあってこそユタの孤高な走りに説得力が増したと思います。
ところでロードレースをテーマにした本作には、ヨーロッパと違って日本では競技がかなりマイナーで、ルールや競技方法が知られていないという問題がありました。そればかりか、作品のような市民ロードレース大会など皆無ということで、企画段階からかなり困難だったようです。
そこをサッポロ飲料のゲロルシュタイナーの冠イベントとして、市民ロードレース大会をラストの対決のシーンとして持ってきてしましました。インターハイならまだしも、マラソン大会並みに市民が沿道に応援に集まり、メディアが解説混じりで本格放送するところに、バーチャル感が否めませんでしたね。
映画『奈緒子』でも、同様なシーンはありましたが、高校駅伝ならホントに地域で開催されていて、地元の放送局でオンエアされている実績があります。
ロードレースが団体競技であることが知られていないことも、マイナス要因でしょう。やはり日本で自転車競技というばケイリンです。個人競技のイメージが強いです。それは入部前のテルも一緒でした。
ところがロードレースでは、チームに役割分担があり、エース以外のメンバーは常に風よけとなったり、他チームと体を張って格闘してまで、エースの走りをサポートしなければならないのです。自分を犠牲にしてまでも、エースを勝たせなければ行けないというロードレースの掟は、時に理解しがたいシーンを生みました。
パンクをしたエース嶋村のために、監督はテルの自転車から車輪を奪い、嶋村のほうに取り付けてしまうのです。仕方なく自転車を担いで走るテルの姿は映像的には絵になったかもしれません。ただそれをエースのためというだけでなく、それもユタを油断させる監督の作戦だったと一捻りほしかったですね。
あと何でテルに代わりのタイヤを届けるために教授は自ら走る事を選んだのか。監督に連絡して車で届けた方が早いのに、わざとシナリオ上でそうさせているしか思えませんでした。
ただラストは意外でよかったです。個人勝負にこだわったテルがチームの一員としての勝利に目覚めるという内容で感動できました。逆に、個人勝負に突っ走ったユタとの対比で、この作品のメッセージが際だっていたと思います。
最後に、ニタと笑って由多監督とユタが握手するところが印象的でした。
キャスト面では、テル以外もキャラが立っていて、好演しています。特にロードレースの走りは本物。3ヶ月間の合宿特訓を経ただけに、吹き替えなしで走る姿に、すごくスピード感を感じさせてくれました。
時に注目はマネジャー桜を演じた南沢奈央の演技とかわいらしさに大注目!年末公開の『赤い糸』に主演も決まっていてブレークは必死でしょう。演技がすごく自然で感情がこもっていて、桜マネジャーから頑張ってと言われれば観客も頑張っちゃいそうですぅ!
由多監督役の原田泰造が渋い演技で意外でした。今後この手の名バイブレーヤーとして活躍できそうです。
初監督作品となった大野監督ですが、荒さの中にキラリと光る映像表現が多々ありました。次作に向けて心理描写を課題に練り込んでいってほしいですね。将来性はあると思いますよ。
(DIVEよりは面白かったです。)
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