「闇に光を当てる一歩」闇の子供たち かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
闇に光を当てる一歩
自ブログより抜粋で。
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子供の人身売買というこの難しい題材を映画化するにあたって、いい意味で“劇映画”としての適度なエンターテイメント性を加味しつつ、それでいて過度に演出されたお涙頂戴な悲劇や安易なハッピーエンドにしなかった真摯な映画化にまず拍手を贈りたい。
(中略)
大人の性の玩具とされたり、一方的な都合による臓器移植のための商品とされた子供たちの悲劇に憤りを感じずにおれないのは、前情報として作品の概要を知った時点で予想できたことだが、この映画が真に訴えようとしているのは外国で起こっている出来事に対する日本人への当事者意識の喚起であろう。まさかの衝撃のラストがそのことを如実に表している。
この手の落としどころは、いわゆる娯楽作としてのサスペンス映画ならさして驚くようなオチとは思わないのだが、こんなガチガチに硬派な社会派作品でこういう終わり方をするとはまったく予想していなかったがゆえにあまりに衝撃的で尾を引く。
宮崎あおい演じる世間知らずの自分探しNGO娘と対を成すこの結末は、口先だけで当事者意識を持ったつもりでいることの浅はかさを浮き彫りにする。
あるいは、本筋のストーリーとは直接リンクすることなく進行する、エイズに冒された少女がゴミ捨て場から脱出し、文字通り地面をはいずって自力で故郷へ戻るエピソード。そこには日本人キャストが関わらないで完結することからもまた、それらが我々日本人の知り得ない出来事として闇に葬られている現実を象徴しているようでもある。
阪本順治監督の確かな演出とともに俳優陣の演技も申し分ない。
子供らが臓器のために売買されている事実に憤りつつも新聞記者として冷静でいようとする江口洋介、あくまで自分の思いに実直であろうとする宮崎あおい、お調子者だが正義感も持ち合わせた妻夫木聡、我が子のためにはたとえそれが不穏なものであってもすがろうとする佐藤浩市、誰も彼もが隙のない演技を見せており、そういう意味でもスクリーンに緊張感がみなぎっている。
映画一本観たところで問題が容易に解決するはずもない。しかし闇に光を当てる一歩とはなろう。
安易な気構えで観られる映画ではないが、この紛れもない傑作を一度でいいから観て、そして考えて欲しい。