「ミステリでファンタジーで家族物語」重力ピエロ きのこの日さんの映画レビュー(感想・評価)
ミステリでファンタジーで家族物語
伊坂幸太郎さん原作、同名小説の重力ピエロの映画版。
まずは原作の話を。
原作がとにかく名作。
ミステリでファンタジーで家族物語。
伊坂幸太郎さんの書く物語は全て、現実世界のファンタジー。
死神の精度とか、オーデュボンの祈りとかは設定が完全に現実世界の域を出ているファンタジーなんだけどそれなのに完全なるファンタジーではない。
本だからこそできること、設定を最大限に無理のない範囲で楽しんでいるような世界観こそ伊坂さん!
おしゃれすぎる会話ができちゃう人とか素敵過ぎる人がたくさんでてくるんだけど「そんなやつおらんやろ!」って思ったりしない。それはファンタジーだから。だけど突拍子なくもない。それは現実世界を描いているから。
むしろ、こんな人いたらいいな、とかこんな世界だったら素敵だろうな、と思えるような世界観。
現実から1センチ浮いたあたりを低空飛行しているようなそんな世界観がとても魅力的。
たぶんとにかくリアリズムを追及したりする方はあまり好きではない方も多いのではないかと思うけどそこはまあ個々の好みで。
重力ピエロもそんな低空飛行小説。
泉水と春の物語。英語にするとどちらもスプリング。
母親のレイプ事件によって生まれた春。ふたりにつながりを持たせたくてスプリング、と隠れたつながりを持たせた両親。
とにかく原作が名作なので、映画はどうなんだろう・・・とおもったけれど「映画として」いい映画でした。原作に出てきたほしかった場面がなかったりしたけど、2時間半だしそこは仕方なし!
まずキャスティングが最高!
お兄ちゃんの泉はなんていうかすごくニュートラルな役柄で、おとなしいというか地味というか、やっぱりニュートラル。優秀で男前な春と比べられ続けて物事を斜めに見る癖が付いている、と自分で言うんだけどやっぱりそれでもニュートラルな感じのする不思議な役柄。だけど内に秘めた思いの強さとかそ―ゆー部分をもっている役柄。
加瀬亮くんが泉。やっぱり加瀬くんはなんでもできるな。すごい。
「性的なもの」をとにかく毛嫌いする美しすぎる青年、春は岡田将樹くん。これまた春を具現化したような人。
ほいで今回の映画の主役といっても過言ではない、名俳優、小日向文世さん!!!
この、重力ピエロで一番重要な役なのは実はお父さん。
まじめで実直な父。ぱっとしない感じなんだけど本当はすごく強くてまっすぐな父親。小日向さんの役作りで原作よりもだいぶひょうひょうとした感じになってたけどそれもまた良かった。
個人的にちょっと残念だったのはお母さん役の鈴木京香さん。原作のイメージとちょっと違いすぎたような。。
もうちょっと普通の母親っぽい色気のない感じの人がよかった。色気ありすぎた。
ということで今回の印象的なシーンはどちらもお父さんのセリフから。
1.俺たちは最強の家族だ
これは父が劇中何度か投げかけるセリフ。
映画化されると聞いて一番に思ったのが、このセリフを父親役の俳優さんがどう演じるのか?というところ。
諭すように言うのか、強く訴えかけるのか。ともすればうそくさく薄っぺらくなってしまうであろうこのセリフ。
これはもうとにかく見ていただきたいです。これだけでこの映画見る価値ありと私は思ったりします。
2.春はピカソが死んだ日に生まれた
春は絵がうまくて小学生の時にコンクール的なものに出典されたりするんだけどそれがまぁ原因で友達のおばちゃんに嫌みを言われる。要するに血がつながってないから的な。
そのあと、家族4人で車に乗ってるときのシーン。
どうして自分だけ絵がうまいのかという春に父親がいう。
春はピカソの生まれ変わりだからだと。
ピカソが死んだ日に春は生まれたんだと。
うわー、お父さん最強。すげぇ。
こういうのを強さとかやさしさっていうか人間としての魅力というんでしょうな、って思った。
何に対してもじぶんなりの答えを持っているというか。やさしい答え。
春は大人になってもピカソを敬愛している。
父のこの言葉がよりどころだったのかもしれない。
こんな人になりたいしこんな人がそばにいたら素晴らしい。
重たいという人も多いしなんせあの分厚い本が2時間半になってるからちょっと唐突なとこも多いけど俳優陣が素晴らしいのですごく楽しめると思います。
どっちかというと原作読んだことある人の方が楽しいのかも。
あと、ぎゅーんってなるのが「赤の他人のくせに父親ヅラすんじゃねぇよ」って春が言うシーン。
これは実の父親、つまりレイプ犯に向ける言葉。
強い決意と自分への決別のようなセリフ。うーむ、重たい。
イメージ的には日曜日の夕暮れ。
楽しかった思い出と明日への憂い。でもまた始まる明日への希望とか。
ぜひぜひみていただきたいです~