「人と同じ生き方をする人間なんて、ただの1人もいやしない。」ベンジャミン・バトン 数奇な人生 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
人と同じ生き方をする人間なんて、ただの1人もいやしない。
老人の体で生まれてきて、年を取るたびに若返っていくという特別な運命を背負った男ベンジャミン・バトンの数奇な人生を描く一代記。
監督は『セブン』『ファイト・クラブ』のデヴィッド・フィンチャー。
主人公ベンジャミン・バトンを演じるのは『セブン』『ファイト・クラブ』に続き、フィンチャー監督と3度目のタッグを組んだ、後のオスカー俳優ブラッド・ピット。
ヒロインであるダンサーのデイジーを演じるのは『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』の、オスカー女優ケイト・ブランシェット。
ロシアで出会った人妻エリザベス役に、『コンスタンティン』『ナルニア国物語』シリーズの、レジェンド女優ティルダ・スウィントン。
デイジーの少女時代を演じたのは、『バベル』でブラピ&ケイト・ブランシェットと共演しているエル・ファニング。
ベンジャミンの育ての親クイニーの夫ティジー役を、当時は映画出演経験がほとんどなかった、オスカー俳優のマハーシャラ・アリが演じている。
第81回 アカデミー賞において、美術賞/視覚効果賞/メイクアップ賞の三冠を達成‼️
映像作家の鬼才デヴィッド・フィンチャーが手掛けたミステリアスな人間ドラマ。
主人公のベンジャミンの体質は特別で、老いた身体で生まれ落ち、年を重ねるごとに若返っていく。
若返ることはある程度歳をとった人間なら誰でも一度は夢見ることだろうが、本作での若返りは一種の呪いのようなものである。
他の人間との違いに悩み、一度は重なった愛する人との年齢差も、年々大きなものになっていく。
しかし、若返ることがベンジャミンの呪いであるのなら、彼以外の人々に課せられた老化という現象も呪いそのものである。
どんな人間も辿る道筋は違うが、結末は決まっている。
ベンジャミンと我々観客は、生まれ持ったものが違うというだけで同じく呪いを受けている存在なのだ。
ベンジャミンの歩んだ道のりは確かに奇妙だが、我々の歩む道のりも他者から見ればまた奇妙なものなのだ。
他者とは違うものを生まれもち、他者とは違う道のりを一生をかけて歩むことが人生であり、最後は同じ終末を迎えることこそが人間として生まれた我々の呪いであり、同時に祝福なのだろう。
飛ぶことの出来ない七面鳥も、素早く羽を動かし飛ぶハチドリも同じ鳥には違いない。
そんな、当たり前だが見落としがちな真理を観客に思い出させてくれる良い映画だった。
3時間近くの上映時間は確かに長いが、その分ベンジャミンの一生を追体験している気分を味わうことができる。
特殊メイクとCGを駆使して表現された、老人と中年、そして青年のブラピには一見の価値あり。
一体どうやって撮影したのか不思議なほど違和感がないのは、素晴らしい特殊効果とブラピの演技力の賜物。
若返ったケイト・ブランシェットも美しい。歳をとったケイト・ブランシェットも美しいのだが。
『セブン』や『ファイト・クラブ』のような癖はなく、誰が見ても感動できる一作。
フィンチャーの得意とするサスペンス演出があまり見られなかったのは残念かな。
とにかく長いので、じっくりと腰を据えて味わう必要があるものの、確かなものを得ることができるお勧めの一本。