劇場公開日 2009年12月5日

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「心に残る名作として評価されてきただけに、試写会場でも終了後には大きな拍手に包まれました。」カールじいさんの空飛ぶ家 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0心に残る名作として評価されてきただけに、試写会場でも終了後には大きな拍手に包まれました。

2009年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ハートの泉&試写会当選情報コミュから応募のあった7名もの同行希望者を迎え入れまして、試写会へ行ってきました。
 全編を通して描かれている主人公カールの最愛の妻エリーへの深い愛情に感動しました。エリーとの死別と再生に向けた本作は、すでにカンヌで絶賛されて、心に残る名作として評価されてきただけに、試写会場でも終了後には大きな拍手に包まれました。
 参加したコミュのメンバーからも、泣けた、感動したというメールが送られてきました。アニメ作品ながら、世代を超えて大人の鑑賞にも耐えるどころか実写を上回る深い感動を得られるハイレベルな作品です。
 映像面での進化も素晴らしく、皮膚の質感や服の汚れ具合など一段とリアルになりました。また古い写真や過去の時代の表現など、古ぼけたレトロな感じを巧みに描いているところが本作の表現で進化したところでしょう。さらに立体感や奥行き感の描写が素晴らしいことです。上映は2Dでしたが、充分に迫力を楽しめました。でも3Dなら飛行シーンなどもっと浮遊感を楽しめることでしょう。なので3D上映のほうをぜひお勧めします。
 それにしても、単なる空想でなく、ちゃんと物理学上の計算をして、約2万本の風船なら実際に映画と同規模の家を空に飛ばせることまで裏付けして描いているところが凄いです。さらに、そのデータを元に、作品のなかでも必要数分の風船を1個1個丁寧に影まで描きこんだと言うから、ピクサースタッフの根気と情熱には、頭が下がる思いです。

 ストーリー面では、アドベンチャーなのに老人が主人公であることが異色です。
 演出面で優れている表現は、冒頭の約10分が印象に残りました。宮崎駿監督もこのシーンだけで充分満足したそうです。
 場面は、主人公のカールとエリー夫妻の出会いと別れ、そしてその間の半世紀に及ぶ仲睦まじさをセリフなしでコンパクトに描いていきます。
 10歳のとき冒険好きなカールは、近所の廃屋で同じく冒険好きなエリーと意気投合。その後ふたりは恋愛し、やがて結婚。思い出の廃屋を新居に暮らし始めます。
 空の雲が全部子供の姿に映ったこと。その後流産したこと。いろんな悲喜こもごもに思い出が詰まった二人のエピソードをまるで走馬燈のように流していくシーン。とてもシンプルだけど、二人の表情だけでジーンと感動してしまいました。

 この導入部は凄く効果的で、その後になぜカールが頑なにわが家を手放そうとしなかったのか、充分に納得できました。 そして、カールとエリーの深い愛が、全編に流れている本作の第1のテーマなんだと気付かれることでしょう。

 本作の第二のテーマは「冒険」。その子供心は78歳になっても変わらない、チャレンジスピリットをカールを通して描いています。
 わが家が人手に渡ろうというピンチに、カールは家ごと風船に浮かべて、南米の高地を目指します。それは冒険家となって伝説のパラダイスの滝へ家ごと行くことを夢見たエリーとの約束を叶えるためのものでした。カールとエリーが結ばれたのも冒険だったのです。
 普通なら、風船による飛行シーンをドラマの中心にした展開を想定することでしょう。けれども本作は、割と早く目的地に着いてしまいます。この割り切り方というか、テンポの良さが本作の持ち味です。

 そして本作の第三のテーマは「友情」。冒険の目的は、滝にたどり着くことから寄り道して行きます。途中カールの仲間になったシギという怪鳥が怪我を負ったことで、その怪鳥を家族の待つ巣へ送ってやることに。でもその怪鳥の捕獲を狙う探検家と手先の人語を話す犬たちの登場により、物語は一気に冒険活劇となって、ハラハラドキドキさせてくれました。
 仲間になった怪鳥を救うためには、どんな犠牲も厭わないという友情もきちんと描かれているところがいかにもディスニー作品らしいところです。
 そしてこの活劇には、たまたまカールの家に飛び込んだ冒険好きな少年ラッセルも活躍します。 その少年目線でも物語が進んでいくので、子供たちにも親しめることでしょう。
 ラッセルとの出会いによって、次第に表情が柔和になっていくカールの気持ちの変化にもぜひ注目してください。「エリー、きみが寄こしてくれたのかい?」と問いかけるほど、ラッセルの存在はカールの孤独を癒して、見落としていた大切なことに気付かせてくれたのです。

 ヒューマンさだけでなく、ラストは迫力ある活劇に進行していくので、後半もだれることなく楽しめました。怪鳥とカールを追い詰める犬たちの「会話」やオトボケぶりがなかなかユーモラスで笑えました。

 全体としてセリフは少なめで、ドタバタがなく、じっくりキャラの所作で表現しているところが、本作の感動を深めているところでしょう。ぜひ鑑賞をお勧めします。

●同時上映の『晴れときどき くもり』
 コウノトリの秘密を明らかにした短編。出来損ないの曇りぐもと落ち零れのコウノトリの間のハートウォームなやりとりが素敵でした。本編よりも遠近感が強調されているので3Dで見たい作品です。

流山の小地蔵