「信念の、行方」靖国 YASUKUNI ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
信念の、行方
ドキュメンタリー映画監督、リ・イン監督が、靖国神社に奉納されているとされる靖国刀を作り続ける刀匠の姿を通して戦争の本性を見詰める、上映当時日本全土に物議をかもした異色ドキュメンタリー作品。
硬軟入り混じる表情で刀を鍛え上げていく一人の男。刀が日本国民を束ね、戦いへと引っ張っていった歴史、そして終戦記念日の靖国神社。「靖国」という特殊な性質を持った神社を是とするか、否とするかという問題に対する作り手としての明確な立場を曖昧に隠し、第三者として世界を傍観する姿勢は好感が持てる。
この繊細な問題に強い興味を持っている人々にとっては、改めて冷静に戦争を考え直す清涼剤として確かに機能する。そして、靖国問題にそれほど興味を持たない世代に対しても、普段あまり見えてこない日本刀の製造過程を丹念に観察する視点は、驚きと好奇心を満たす役割を満たしてくれる。
本筋の日本国を問い直すという課題とは少し外れるが、この作品の作り手は強い信念をもって突き進む人間達に対する強烈な憧れであったり、興味を色濃く作品に反映しているのが面白い。
特に印象的なのは、靖国神社に七回も訪れて日本に散った台湾人の名前を、靖国から削除するよう要請する団体の女性リーダーの描写だ。神社に入る時、去る時、その両方で団体の同士を両隣に引き連れ、まるで戦場に赴く戦士の如く、某刑事ドラマの横並びに颯爽と歩くヒーローの如く風を切って歩いていく。その華麗さと、迫力。強い思いをもって進む人間を、ひたすら格好良く、丁寧にオーラを纏って描く。ドキュメンタリーという作品にあって、この演出は異質、かつ興味深い。
観客として、この作品が問う問題に対して是非を唱えるつもりはない。ただ、本作と同じ第三者の立場を貫くまでだ。その上で、譲れない、命を賭けて挑戦する信念が人をいかに輝かせるか、威光を放つかを、思わぬ形で見せ付けられたことに目を見張る限りである。