かいじゅうたちのいるところ : インタビュー
「マルコヴィッチの穴」「アダプテーション」という独創的な映画で知られるスパイク・ジョーンズ監督が、初の原作モノに挑戦。全世界で愛される名作絵本「かいじゅうたちのいるところ」を映画化した。この意外な選択に映画ファンも興味津々のはずだが、果たして監督が本作に挑んだ心境は? 来日したジョーンズ監督にインタビューを行った。また、取材中に監督が描いてくれた直筆イラストも公開するぞ。(取材・文:平沢薫)
スパイク・ジョーンズ監督 インタビュー
「マックスには、この映画を見る人全員のある一部が取り込まれていると思う」
原作は、9歳の少年マックスが、不思議な島でかいじゅうたちの王さまになる、モーリス・センダックの同名絵本。普通のファミリー映画にもできる原作だが、それが大人も楽しめるユニークな映画になったのは、監督が「マルコヴィッチの穴」「アダプテーション」のスパイク・ジョーンズだから。
彼を監督に指名したのは、原作者センダック。2人は本作の製作前から知り合いで、センダックはジョーンズ監督に「僕はこの絵本を個人的な作品として書いたんだから、君もこの映画を個人的な作品として撮るべきだ」とアドバイスした。ジョーンズ監督は、5歳の頃に母親が読んでくれたこの絵本を好きだったことを覚えていて、この絵本の自分バージョンを作る、というアイデアに魅せられた。
「描きたいと思ったのは、子どもの頃の感情だ。この映画は、主人公の9歳の少年マックスの目から見た世界を描いているんだ。原作が大好きだから、原作にないものを付け加えるんじゃなく、原作を掘り下げて描こうと考えた。そこで原作の“かいじゅうたち(wild things)”とは何なのかを考えていって、子どもが抱くワイルドな感情(wild emotions)のことだと考えた。そこから物語を創っていった。それぞれのキャラクターに特徴的な感情を設定して、それにマックス少年がどう対応していくのかを描いていったんだ」
そこで監督は、このかいじゅうたちを着ぐるみで描くことにこだわった。
「主演のマックスが、実際に触れたり、寄りかかったり、押したり、抱きしめたりできるようにね。そうじゃないと、観客にかいじゅうたちの息づかい、大きさ、重さを本能的、直接的に感じてもらえないからね」
もうひとつ、監督がこだわったのは、この映画に瞬発的なもの、即興的なものを取り入れること。
「かいじゅうの表情はCGで描くことになったから、その工程では映像はすべて予め計算されたものにならざるを得ない。でも、感情を描く映画なんだから、映画自体には計算とは逆の、瞬発的なもの、危険を孕んだものを取り入れたかった。そこで、着ぐるみの撮影をする前に、声の出演者たちを一同に集めて、2週間かけて演劇をするように声を録音したんだ。俳優は2人で台詞を言い合うだけで、台詞がひとりで言うのとは違うものになる。相手の言い方で、台詞の言い方が変化するんだ。いろんな化学反応や瞬発的なものが生まれて、それがこの映画の精神面での土台になった。この録音の光景をビデオで撮って、着ぐるみで演じる俳優たちに見せ、彼らはそれを参考に演技したんだ」
この、かいじゅうの表情をCGで描くというのは、デビッド・フィンチャー監督の提案だった。
「デビッドとは以前から友人で、この作品の製作中も一時、彼のオフィスを間借りしていて、作品についても話をした。僕が着ぐるみとアニマトロニクスで撮影するつもりだというと『お前、アホか』と言われたよ(笑)。『そんなものを持ってジャングルに行ったら、故障ばかりで撮影は終わらず、2度と帰ってこれないぞ』ってね。そして、その頃、彼が製作中だった『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』のCGで表情を合成した視覚効果のテスト映像を見せてくれたんだ。それがすごかったんで、この映画も表情をCGで描くというやり方にすることにしたんだよ」
こうして出来た映画は、これまでのジョーンズ監督の概念的で知性に訴えかける作風とは異なり、ストレートに感情に訴えかける映画になっている。
「僕は自分の子どもの頃がどうだったか思い出しながら、この映画を撮った。だから、主人公のマックス少年のある部分は僕だし、ある部分は原作者センダックや、主演のマックス・レコーズでもある。でもマックスには、僕らだけじゃなくて、この映画を見る人全員のある一部が取り込まれていると思うよ」
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■スパイク・ジョーンズのイタズラ描き、公開!
ところで取材中に「着ぐるみのいじゅうたちをどのように演出したのか?」との質問に対して、ジョーンズ監督はおもむろにノートにスケッチ。「こうやってかいじゅうたちを操作したんだ」と描いてくれたのが右のイラストで、「この演出方法で特許を取ったんだ」と大まじめな顔で応えたジョーンズ監督。そんなイタズラっぽさから、子ども心を忘れてない監督の人柄が見えた取材になった。