劇場公開日 2008年4月5日

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モンゴル : 映画評論・批評

2008年3月25日更新

2008年4月5日より丸の内TOEI1、新宿バルト9ほかにてロードショー

いかにしてテムジンが悟りの境地に達したかを掘り下げた精神的なドラマ

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のちにチンギス・ハーンと呼ばれ、モンゴル帝国を築く若者テムジンの物語。角川春樹総指揮の「蒼き狼 地果て海尽きるまで」とつい比べたくなるのが映画ファンの人情というものだが、そんな野次馬的発想はあっさり吹っ飛ぶ。この2本、あまりにも“異質”なのだ!

テムジンの少年時代から青年期に着目し、妻との絆や宿敵との因縁を盛り込んだ話は、「蒼き狼」とほぼ同じに思える。しかし映画としての肌触りがまったく違うのだ。若草萌ゆる美しい草原よりも、砂漠や岩山などの荒れ地で積極的に撮影を実施。異様とも思えるムードの映像で、ひたすら苦行の人生を堪え忍ぶテムジンの流浪の日々が描かれていく。テムジンの内面と荒ぶる大自然との相克が重要なエピソードとなり、いかにして彼が悟りの境地に達したかを掘り下げた精神的なドラマとなった。それなりに派手な合戦シーンもあるものの、爽快な武勇伝からはほど遠い仕上がりだ。

何せこの映画で最も強烈な印象を残すのは、テムジンが獄中で瞑想に耽るシーンなのである。その姿は戦乱の勇者どころか、この世ならぬ幽鬼のようだ。その延々と続く沈黙のシーンを成立させた浅野忠信のカリスマ性はやはり凄い。終盤のストーリー展開が唐突だったりして、テムジンが天下を治めていく物理的な過程はほとんど抜け落ちてしまっているのだが、テムジンという男の人間的スケールだけはひしひしと伝わってくる。「蒼き狼」が伝記ドラマならば、この映画は“神話”というべきであろう。

高橋諭治

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