ぼくの大切なともだち : 映画評論・批評
2008年6月17日更新
2008年6月14日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
様々な格差や壁を壊していくルコントならではの繊細なドラマ
ルコントの新作の導入部には、この監督のスタイルを逆手にとるような面白さがある。「タンデム」や「列車に乗った男」では、男同士の友情や絆が、含みのある様々なエピソードを通してさり気なく描き出されていた。だが、この新作の場合はそうはいかない。
仕事だけが生き甲斐の美術商フランソワは、10日以内に親友を披露しなければ、高額な壷を失ってしまう。自信に溢れていた彼は、なりふり構わず友だちを探し、誰とでも親しくなれるタクシー運転手ブリュノにノウハウを学ぼうとする。そんな姿は滑稽だが、もちろんただのコメディでは終わらない。
ブリュノは、実は心に傷を抱え、クイズ番組に出場する夢を支えにしていた。骨董という物だけを友とするフランソワと、知識という情報だけを友とするブリュノ。そこには、勝ち組と負け組の孤独を見ることができる。
ルコントは、ひねりを効かせた展開のなかで友情と愛について考察を加え、勝ち組と負け組の格差や異性愛者と同性愛者の壁を壊していく。この映画では、次第にルコントならではの繊細な人間ドラマが浮かび上がってくるだけではなく、導入部の賭けも実は友情から始まっていたことがやがて明らかになるのだ。
(大場正明)