実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)のレビュー・感想・評価
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人間の弱さ、心の暗さから目が離せない
「突入せよ!「あさま山荘」事件」を観て以来、山荘の内側を描いた本作も観ておきたいと思っていました。
1960年以降の学生運動の流れが冒頭にあり、激化していく活動の状況はわかりやすかったです。原田芳雄さんのナレーションが効いてます。
60年代前半は「コクリコ坂」の頃、後半は「マイ・バック・ページ」ねと思いつつ観ていると、70年代に入り連合赤軍の暴走が始まります。
銃で武装し先鋭化、短期間に10名以上が殺害される榛名アジトのリンチ事件、そして逃亡の果てのあさま山荘事件。
人間の弱さがねちっこく描かれ、目が離せませんでした。
集団が方向性を失い、ストレスが内向きに発散される陰惨さはやりきれませんでした。だけど呪文のような革命理論を聞いてる間は、観ているほうもチョット感覚が麻痺してくる、怖ろしいことです。
人間の不可解な愚かさ
3時間10分の大作ですが、全く長さを感じることなく、スクリーンに釘付けになりました。
“総括”という名のリンチの犠牲者は11人、8ヶ月の子を身ごもっていた女性もおり、その子を含めれば12人です。
一体、どうして人間はここまで狂気に走ってしまうのか?
赤軍派の森恒夫はかつて、一旦は組織から逃亡した人間でした。
再び戻ってきたとき、幹部たちは逮捕されて、森が主導者になっていったのです。
森は元々極めて臆病な人間だったのでしょう。
弱い人間ほど強がったり、力に訴えて、自制が効かず暴走してしまいます。
異常な思想に取りつかれ、閉塞した空間で、感覚が麻痺していき、自らが失墜したり被害者にならないため、追い詰められて、そうする以外なくなってしまうのではないでしょうか。
わずかでも人心を掴む知恵があったなら、こんな異様な事態には陥っていかなかったでしょう。
人は心で動くものであり、力でねじ伏せようとする者は、いずれ間違いなく破滅するのです。
僕も若いとき、創作によって社会を変えたいと思い、前衛的な思想に駆られていた時期がありました。
ある天才的な同人誌仲間と、現実離れした観念的な世界に生きていました。
20代のときは、現実社会の動かしがたい重みが分かりませんが、エネルギーと熱意はあり余り、過激に傾倒しがちです。
それで破綻して挫折するまで、どういう結果が待っているか気付くことはできないのです。
従って僕も、連合赤軍のアブノーマルな偏向が、全く理解できないわけではありません。
それからまた、記憶に新しいところでは、あの「オウム事件」があります。
信者は誰もが初めは、真理を求め、自分を成長させて、人のためになりたいと願っていたはずです。
ところが、オウム真理教というねじれた教義に染められ、マインドコントロールという物理的・強制的な手法もありましたが、通常は考えられない蛮行を犯すまでになって行ってしまいました。
純粋で高いものを求めている人間ほど、一歩間違えれば常識はずれの道を突き進んでしまうのかもしれません。
そして松本智津夫もまた、臆病な人間でした。
ヒトラーも然りです。
そういうことから考えれば、連合赤軍の暴挙は全く不可解なでき事ではなく、誰もがそうなる可能性を秘めているとも言えるでしょう。
若松監督は、それを我々に突きつけているのかもしれません。
翻って現代は、長期にわたる不況で先が見えず、自分の力で世の中を変える夢想をするどころか、自分自身の将来さえおぼつきません。
社会と関わることを避けて引きこもったり、心を病む若者が増えています。
30年ばかりの間に、日本は何と変わってしまったことでしょうか。
だがそんな社会でも、何か特殊な空間に取り込まれると、時代によって形は変わっても、同じような過ちを犯す可能性が、人間の心の病的な部分には潜んでいるのかもしれません。
あと何年かしたら、今度はオウム事件が映画化されるときが来るでしょう。
そのとき我々は、何を見せつけられることになるのでしょうか。
知らな過ぎた「真実」までの道程
連合赤軍という、時代の波に翻弄された若者達への
怒り、焦り、哀しみ、苛立ち・・・そして、少しの羨み
そんな行き場のない感情と、
あまりにも無知であった自分への羞恥と共に
過ぎ去った190分。
気づけばエンドロール。
事件には、被害者と加害者が存在する。
連合赤軍は、加害者なのか?被害者なのか?
何が正しく、何が間違っているか。
そんなのは所詮、私感・道徳観ありきのことであり、
人間(世界)というものは、もっと複雑で混沌としている。
この作品は、「あさま山荘事件」の善悪を問うものではなく
何故、事件が起きたのか。その道程(みち)
現代日本に生きる私たちには、遠くの国の現実離れしたお話も
集団、権力、独裁、テロリスト
知らぬ間に陥る負の連鎖
事件の加害者であり、時代の被害者でもあるのかもしれない。
とにかく、映画としてどうこうよりも
ひとりでも多くの日本人に伝えたい作品である。
鑑賞後、劇場エントランスでタバコを燻らす指の震えが止まりませんでした。
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