「【”深い絶望を背負った女に神の恩寵は届くのか。”主演のチョン・ドヨンの絶望と微かな希望を称える表情の変遷と、俗人に見えた男を演じたソン・ガンホが彼女の隠れた太陽だった事を暗喩するラストが見事な作品。】」シークレット・サンシャイン NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”深い絶望を背負った女に神の恩寵は届くのか。”主演のチョン・ドヨンの絶望と微かな希望を称える表情の変遷と、俗人に見えた男を演じたソン・ガンホが彼女の隠れた太陽だった事を暗喩するラストが見事な作品。】
■ギャンブルに溺れていた夫を事故で亡くしたイ・シネ(チョン・ドヨン)は幼い息子ジュンを連れ、夫の故郷である地方都市・密陽に引っ越してくる。
彼女はそこで自動車修理工場を営む中年独身男性・ジョンチャン(ソン・ガンホ)と知りあう。何かと世話を焼いてはシネの気を惹こうとする俗人ジョンチャンだったが、シネは彼の行為に対し、最初は作り笑顔で対応するが、本心では嫌っている。
イ・シネは、新しき土地でピアノ教室を開き、土地投資の話にも乗る。精神的に安定していない事が分かる序盤の幾つかのシーン。
そんな中、彼女の最愛の息子であるジュンが誘拐され、身代金を払うも無残に死体になって発見されてしまう。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・非常に重いテーマ”深い絶望を救うのは、神か。許されざる行為に、神は赦しを与えるのか・・。”を扱った作品であるが、どこか作風は飄々としている。
そして、私は、名匠イ・チャンドンは、イ・シネをも罪人の様に描いている気がするのである。
・密陽と言う町は実際に存在するが、この作品の舞台としてはその名が異様に合っている気がするのは、私だけであろうか。
密陽と言う小さな町には、プライベートは存在しない。
越して来たイ・シネに対し、表面上は優しく接する町の人達だが、陰では彼女の噂話に余念がない。土地投資を持ち掛けたり、亡き夫の噂話をしたり、薬局の女主人は怪しげな新興宗教の神(どう見ても、”あの団体”である。)の恩寵を説き、彼女を勧誘するのである。
・そして、精神的に参っていた彼女は、その団体の集会に参加し、一時的に神の恩寵を感じ、あろうことか息子を殺した”彼女が土地投資に興味を持っていた事を知っていた顔見知りの”殺人犯を赦す為に面会に行くのである。流石に止めようとするジョンチャンだが、彼女は聞く耳を持たない。
・だが、犯人に面会に行くと、彼は既に自分自身で神に赦されたと話し、顔色も良いのである。実にシニカルなシーンである。
その表情を見たイ・シネは、明らかに精神に異常を来し、空を見てはブツブツと何かを呟き、死んだ筈の息子の姿を家の中で目撃し、新興宗教の神を崇める人達の教会では不穏な行動を取り、集まりの場には石を投げつけ窓を割るのである。
で、彼女は精神病院に入院するのである。
・漸く、精神病院を退院した彼女を彼女の弟たちと待っていたのは、ジョンチャンである。彼は彼女が新興宗教に嵌った時は、わざわざ交通整理役を買って出たりする俗人の様に描かれてきたが、このシーンでも彼は彼女を送る運転手として待っているのである。だが、イ・シネが彼を見る眼は虚ろである。
<そして、イ・シネが噂話をされていた美容院で髪を整えて貰っていた時に、彼女はそれを遮り、フラフラと町に出るのである。
そんな彼女の髪はボサボサなのであるが、ジョンチャンは彼女を庭に置いた椅子に座らせて、優しい表情で髪を切って上げるのである。そして、イ・シネは黙って髪を切って貰うのである。
今作は、哀しき女を演じたチョン・ドヨンの絶望と微かな希望を称える表情の変遷と、俗人に見えた男ジョンチャンを演じたソン・ガンホが、実は彼女の隠れた太陽だった事を暗喩するラストが見事な作品なのである。>
