劇場公開日 2008年5月17日

「原作は看守の手記」マンデラの名もなき看守 asicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0原作は看守の手記

2020年2月21日
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彼がこの手記を残そうと思ったのは、もちろんマンデラとの交流が彼の人生において輝かしいものであったからだと推測する。

アパルトヘイト
南アフリカの人種隔離政策。

アフリカ大陸の中で唯一 アフリカという名を冠している白人主体の国家。
その国は長らく、国の法律の中に堂々と人種差別の条項を持っていた。

20世紀も末になる頃にやっとそれが撤廃されるが、それは国連主体の世界からの厳しいバッシングに折れたからであり、国の内部からの盛り上がりであったとは言い難い。

国の体制はずっと黒人に対する侮蔑と脅威を持ち続け、そのために彼らを檻の中に閉じ込めることしかできなかった。
白人たちにとって黒人たちは、野に放てば野生のライオンの如くに荒れ狂い、彼らを食い散らかすだろう存在であったのだろう。

しかしその黒人の1人 ネルソン・マンデラは大学に行き学位があり法律家である。
食い散らかすライオンなどではなかったし、無闇なテトリストでもない。
だからといってガンジーのような無武力主義者でもない。

人には 人の器 のようなものがある。

部族の首長の息子として生まれたマンデラは、人を導くべき人間として取るべき行動の指針を持っていた。

彼のその器に魅せられた看守である主人公の彼は、
もちろん世界の中においてのマンデラの評価も聞き及んでいただろうが、実際に自分が彼と対峙している事、そして自分こそが獄中内で唯一 彼を理解している人間である事に誇りのような物を感じていたのではないか。

その気持ちはもちろん彼が釈放された時に頂点となっただろう。

看守である彼の妻は 当然のように 日々の暮らし〜部屋の間取りとか庭の存在とか給料など〜こそが重要で、そこにはなんの間違いもない。私だってそうなる。

そういう美しい妻と子どもたちを彼は心から愛し、そしてマンデラという男にも傾倒して行く。

それは この国 この時代には 相反する事象だった。

黒人たちに対する白人たちの態度は
例え相手が 人間でなく鬼畜であったとしても見る者の目を逸らしたくなる程の下劣さである。

それらは、奴隷船に乗せられアメリカ大陸に売られていった黒人たちの姿とも重なる。

解放を訴え続け、国に民族による差別撤廃を訴え続けた男の
長きに渡る刑務所暮らしを見守って来た男の手記。

それはもう素晴らしい価値のあるものに間違いない。
そして手記をしたためたのち そう長くない年月で彼は癌で亡くなっている。
彼は当初 自分が意図せずともスパイのような行為をしてしまっていた事。
それは 自分にとって心の基盤であった黒人少年との友情である言語がもたらしたものであったこと。

長らくその罪の意識に苦しみ、我が息子を亡くしたのはその天罰であると悔いる。

この手記は これらの感情が全て絡み合った事から成されたものである。
誇りであり そして懺悔である。

そういう時代背景を知り 1人の「名もなき」看守の人生を味わう映画だった。

今の南アフリカという国家は
最近で言えばラグビーの対戦相手であり、数年前にはサッカーのワールドカップが行われた。
最大都市あるヨハネスブルクの治安は 治安と呼ぶには相応しくないくらいの荒れ様であり、4人に1人がエイズを発症そている国である。

当然 白人からの不当な支配があるべきとは思わないが
マンデラは 今 こういう南アの状況をどう思っているのか聞いてみたいような気もする。

そして 感想の最後に。
「24」で 突然命を落として出番のなくなったパーマー大統領がマンデラ役をやっていたのは嬉しかった。

asica