「裏サイコ。」ヒッチコック ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
裏サイコ。
神とか天才とか言われる人に限って、生存中に評価されないのが常。
ヒッチ大先生も、これだけの作品を世に流し大ヒットさせたにも拘らず、
アカデミー賞(監督賞)には最期までソッポを向かれっぱなし。
「レベッカ」は作品賞を受賞したものの、彼が壇上でオスカーを手にした
のは1967年のアーヴィング・タールバーグ記念賞(功労賞)の一度きり。
そして今作もとても良く出来ていたけれど、やっぱりアカデミー賞には
ノミネートすらされなかったなんて、なんだか酷い因縁ねぇ。
ギョーカイに好かれる人と嫌われる人って(まぁ人間的にも)いるけれど、
それと作品の出来映えっていうのは別物なんだけどねぇ。
日本人にもお馴染の「ヒッチコック劇場」。
子供の頃、あのテーマ曲がかかるだけで、もうワクワク♪
ヒッチ先生を知らない人でも、このサイコと鳥くらいはご存知なのでは?
サスペンスの神様でありながら、見るからにコメディ体質(体型か^^;)の
立ち居振る舞いとあの仏頂面が不釣り合いなところなども、またお茶目。
自作には必ずどこかでちょこっと出演(爆)も、あの体型だからすぐ分かる。
確かに怖い(と思わせる)独創的な作品が多かったけど、今作にも出てきた
「北北西に進路を取れ」などの娯楽大作も数多く作っているので楽しめる。
ただ、肝心の奥様であるアルマに関しては、まったく存じ上げなかった。
あくまで彼の陰となって(言ってましたもんねぇ)支え続けた彼女の
内助の効があってこその「サイコ」の大成功。このバックステージものから
彼女の才能と天才が持つ偏執性が浮き彫りになるのが、ますます面白い。
神様は、よき伴侶を得たのねぇ。
それにしても60歳を過ぎてもやる気満々。ああいうところはさすがに病気?
かと思えるほど、監督性が出ていて面白い。大金を得たら満足して引退、
気が向いたらまた撮るよ。なんていうお気楽監督とは違って、もう寝ても
覚めても映画のことばかり考えている。パラマウントに出資を断られた
ヒッチ先生は大邸宅を抵当に入れて、また一から映画作りをやりたいんだと
アルマに告げる。もうこのプールで泳げないの?と尋ねるアルマだったが
(赤い水着で泳ぐところは可愛かった)彼の提案を心から喜んでいるところが
とてもよく出ていて微笑ましかった。彼女も、そんな彼が好きで結婚したの
だろうから、どんな妄想魔(ゴメンね)でも、映画作りに没頭するヒッチ先生が
大好きだったのだろうなと思える。
ただこの妄想神様(スイマセン)の、唯一の欠点がブロンド美人なのよねぇ。
今作の、のちのち実際に問題を起こしているのだけれど(T・ヘドレンと)、
アルマが妬いて仕方ないほど、ブロンド美人への固執は酷かったみたい。。
でもヒッチ先生だってアルマの浮気を疑ってバカなことをしでかしてみたり、
結局、家でも現場でも四六時中一緒なのは息が詰まるし、そのせいか
互いの仕事は尊重しようとする心掛けだけは、持ち合せてたみたいだけど…。
当時、試写室でこき下ろされて使い物にならないと思われた「サイコ」を、
妻アルマの機転で再編集を重ね、傑作に仕上げた過程は素晴らしいの一言。
上映2館でしか許されなかった劇場で、例のシャワーシーンがかかる前に
ロビーに出て、観客の悲鳴に指揮棒を奮うヒッチ先生には涙が溢れてきた。
あんな血の滲むような努力と忍耐でやっと、それが受け容れられたことへの
これが監督至上の喜びなんだろうなぁ…だからやめられないんだよねぇ…と。
エンディングにも凝っていて、ヒッチコック劇場のノリで終わる。
彼の肩に…!は、まさしくニヤリ。神様はまたこの後に傑作を撮るのだから。
(主演二人には文句なし、脇も確かな演技力。サイコをもう一度観たくなる)