「本作ではいかに観客をダマしたかを目的にしたイタズラ心が描かれていくのだから、堪りません(^^ゞ」アフタースクール 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
本作ではいかに観客をダマしたかを目的にしたイタズラ心が描かれていくのだから、堪りません(^^ゞ
前作でも凝った脚本が評価され、カンヌ映画祭で4賞を獲得した内田監督が、細部まで作り込まれた脚本をひっさげ、またまた観客を混乱のるつぼをに放り込むためめメガホンを撮りました。
社会に出てそれぞれ違う世界観を持ってしまった3人の同級生が巻き起こす、大人の放課後の世界。まさにどんでん返しが続き、驚きの展開でした。
なんと言っても、この作品のメインテーマは、「大人のイタズラ」。内田監督にとってのアフタースクールなんです。本作ではいかに観客をダマかを目的にしたイタズラ心が描かれていくのだから、堪りません(^^ゞ
何せ冒頭のラブレターを手渡すシーン。そして穏やかな夫婦(らしき)の朝のシーンを、そのまま鵜呑みにしたら、あとでとんでもないくらい、ギャフンと言わされますよ、コレ。それが後半で見事に、全部ひっくり返ってしまうですから、ラストで放心状態に(>_<)。まるでキツネ狩りのハンターがキツネに包まれたような心境となりました。
エンドロールを終えて、終わったと思いきや、ななっ:なんと突如として、画面にはこの作品のキーマンであるあゆみ母子が写り、その隅にさりげなく置かれたテレビの画面で流されているニュース番組に、気になるあの人がどうなったか報道されるのですよ。この部分が本作のオチなんで、エンドロール途中で席を立った人は、あとでこの話を知ったら、悔しがるでしょうね。イケズな監督ぅ~!
そして、なにげな~くちょこんと出てて来るワンカットとそこの登場人物が、あとで重要な伏線で登場してくるのですよ、例えば何気なく街頭で演説している政治家とかね。
そんなわけで本作の非常に緻密な構成には出演者も戸惑ったようです。
大泉: 『運命じゃない人』を観ていたのでかなり覚悟はしていたんですが、最初はやっぱり難しかったですね。
佐々木: 一度読むだけじゃ理解が及ばず、登場人物の名前と関連性を紙に書き出し整理・分析しました。
堺: 仕掛けがたくさんあって、一度読んだだけでは全部は理解できなかったです。
本作では、物語が進行していく中で、どんどん登場人物が印象を変えていき、オチに繋がっていくことが重要な部分を占めています。ですから俳優陣には多くの「顔」を求める必要がありました。
例えば探偵役の佐々木蔵之介には、「世の中の色んなものを見てきた目をしている」という理由でオファーをしたそうです。
実際に、劇中ではどんなダーティーな仕事でもこなしそうな目つきで、大泉洋が演じる神野を監視していましたね。
しかし、この一見お人好しかつ真面目一本槍の教師は、実は一筋ならではいかぬ頭脳派だったのです。まんまと探偵を騙しきってしまうという裏表のある役柄に監督も悩みに悩んで大泉に決めたそうです。
美女と行方をくらまし、探偵やヤクザに追われる身となる大手企業サラリーマン木村役に堺雅人が、虫も殺さぬポーカーフェースで、観客をケムに巻いていました。
大泉・佐々木・堺の競演は、まさに絶妙なバランスの「同級生」役でしたね。
ところで、内田監督の作品は、人情描写においても優れていると思いました。
特にアウトローの探偵と対照的な教師の神野の会話において際だっていました。
例えば探偵は、神野の余りに世間知らずで生真面目な言動に切れて、学校のなかでしか物事を考えられない奴、少しは放課後のことも勉強しろと罵倒します。
ところが、終盤ことの顛末が分かって呆然と佇む探偵に、神野が逆襲。探偵のアウトローぶりを「お前がつまらないのは、お前のせいだ」という名台詞を残して、切って落としました。
このシーン一つとっても、ただ可笑しいだけでなく、内田監督の人間観察の深さを感じます。そして、そして監督の作品でおなじみの“純朴でいい人”に対して、馬鹿にするのでなく、温かくユーモアに満ちた視線で描かれていることに好感が持てました。
ラストまで見ていただければ、ギミックに満ちた脚本の合間から、滲み出る人情にホロッと涙ぐむ人も出てくることでしょう。
「アフタースクール」というタイトルに、大人になってどう生きるのという監督のメッセージを感じた小地蔵でした。