「ウンコという絆で結ばれた戦友」光州5・18 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ウンコという絆で結ばれた戦友
当時の韓国の情勢など知る由もなかった1980年。隣国でこのような残虐な事件があったことに衝撃を受け、軍事政権に対する憤りのおかげで映画館の席を立つまで身体の震えが止まらなかったほどでした。徹底抗戦を繰り広げる光州市民の決断について、日本でこんな事態になったなら?等々、考えさせられることも多く、ずっと心に残りそうな映画。
両親を早くに亡くしたタクシー運転手ミヌ(キム・サンギョン)と高校生のジヌ(イ・ジュンギ)の兄弟。ミヌはジヌと同じ教会に通う看護師シネ(イ・ヨウォン)に恋していた。同僚インボン(パク・チョルミン)の後押しもあって、なんとか映画に誘い出すことに成功。弟も同伴でコメディ映画を観ていたら、催涙弾とともに傷ついた男が兵に追われて助けを求めて館内に・・・
1979年の朴正煕大統領暗殺によって訪れた束の間の民主化の兆し。平和に暮らす国民の前に立ちはだかったのは軍による学生デモの鎮圧であった。全斗換退陣、金大中釈放などのシュプレヒコールを行う学生たちに襲いかかる理不尽な力。デモとは関係のない一般市民にも軍隊による残虐行為が繰り返されるのだ。
韓国でもタブーとされてきた光州事件を暴くドキュメンタリー映画のような内容を想像していたけど、力のない小市民が極限状況においていかに抗戦するようになったかという心理状態や家族や恋人のみならず、同じ市民への愛も感じられるドラマでした。大学生の息子を殺された盲目の女性、父親を殺された幼子、同級生を殺された高校生たちやその教師。感情移入せずにはいられない・・・
シネに対する中学生並の純情な愛に微笑ましくなり、演ずるイ・ヨウォンが徐々にともさかりえに見えてきた。鼻と口元がとてもよく似ているんです。その父親は元軍人であり、市民軍の隊長となるアン・ソンギ。終盤にキム・サンギョンが彼に「アボジー」と泣き叫ぶシーンに涙がこぼれ、追い込まれた市民兵が「名前を忘れないでくれ」と次々に無線機に呼び掛けるところで大泣きでした。
軍事クーデターによる政権がいかにおぞましいものであるか、権力による情報操作がいかに世の混乱を拡大させるか、などとあれこれ考えてる中、末端の兵士だって同じ韓国人なんだと思うと、ますます悲しくなってくる。事件が拡大した原因には兵役義務があったり、国民性の違いがあるためと簡単に片づけてしまう嫌韓の方もあろうが、このような惨劇はどこの国においても起こる可能性があるものだ。軍隊(自衛隊だってそうだ)は決して国民を守るための組織ではないということを忘れてはならないと思う。