美しすぎる母 : 映画評論・批評
2008年6月3日更新
2008年6月7日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
ブルジョワ母子のデカダンな愛のドラマ
合成樹脂ベークライト(耐熱性に優れ、自動車部品や家電に使われる)の発明により一代で巨万の富を築いた、大富豪ベークランド家に嫁いだ貧しい家庭出身の美しい母バーバラ(ジュリアン・ムーア)と、多感すぎる感受性から“デカダン”な世界へ足を踏み入れていく一人息子アントニー(エディ・レッドメイン)との危うい愛憎関係を描いたドラマ。
トム・ケイリン監督(「恍惚」)は、1946年からニューヨーク、パリ、マジョルカ島、ロンドンと欧米を転々とする一家(後半は母子のみ)のブルジョワ生活をカラフルに切り取り、1972年11月17日、ロンドンで実際に起こった衝撃の事件(母親殺し)に至るまでを紡いでいく。製作にキラーフィルムのクリスティーン・バション(「エデンより彼方に」)が名を連ねているだけに裸の描写も多く、ムーアが時代時代に着るシャネルスーツも完璧な着こなしで、ケイリン監督らしい耽美性がにじみ出ている。
この背徳の母子関係は、ビスコンティ監督の「地獄に堕ちた勇者ども」のイングリッド・チューリンとヘルムート・バーガーをどこか彷彿とさせる。上昇志向が強すぎる母親の愛が、一人息子への過剰な愛欲として現れるクライマックスがグロテスクだ。
(サトウムツオ)