劇場公開日 2008年9月20日

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「難解の極致」蛇にピアス R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0難解の極致

2024年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

難しい

芥川賞受賞作の実写化
純文学
純文学だけに起承転結など、ないと言っていいだろう。
少女ルイ
おそらくノーマルな2008年現在の若者を描写している。
このノーマルさを出すために吉高由里子さんが配役されたように感じた。
彼女をイレギュラー的風貌にデフォルメしてしまえば、この作品は誰にも届かなくなる。
芥川賞と理解されない現代の若者
この描写に不可欠な配役 多くの主人公になり得る俳優陣の配役
この世界観を知って欲しい監督の意図
この世界 若者の世界
ルイの住む世界はとても矮小的に感じる。
まるで袋小路に自ら迷い込もうとしているようだ。
さて、
無音で始まるこの作品
渋谷の街を歩くルイ
ルイは客引きに誘われるままクラブに入った。
しかし彼女の見ている世界には「音」がない。
ずっとイヤホンで音楽を聴いているからだ。
これは、ルイには自分の意思がないような表現だろうか?
逆に意識的に自分を隔離しているのかもしれない。
クラブの席に腰かけたまま音楽を聴いているルイに話しかけてきたアマ。
見た目にも全く釣り合ってないように思えるが、この二人はすぐに打ち解ける。
それからはアマのアパートで同棲を始める。
ルイはそれまでどこに住んでいたのだろう?
埼玉県に住む両親の実家からぼんやり遊びに来ていただけなのかもしれない。
もしかしたらバイトの合間に、そうなってしまったのかもしれない。
実家にルイの居場所はないのだろう。
どこにいてもそこがまるで映画か何かのように虚無でしかなかったのかもしれない。
「誰かに声をかけてもらえる」ことを求めていたのかもしれない。
それは誰からも必要とされてこなかった空虚感によるものだろうか?
彼女にとって人生とか、夢とか、目的とか、そんなものよりも「誰かが私を必要としてくれる」ことがうれしかったのかもしれない。
スプリットタン
「君も人体改造してみない?」
何かになれる
何かになりたい
今の自分自身を脱ぎ捨てたい
誰もが思う欲望
同時にそれは、「彼女の闇」の裏返しだろう。
人との出会いは、少なからず自分に影響を与える。
人体改造
スプリットタン
タトゥ
このような些細な変化によって、ルイは「何かになれる」気がした。
それは、目標にもなった。
目先だけでもいい 目に見える目標
それは彼女にとっての喜びだった。
そしてアマとの新しい生活
そしてシバとの出会い
舌に穴をあけてもらった瞬間、見えた幻想 または運命的なもの
シバに首を絞められている自分
「人の形を変えるのは神の特権」
ルイは最初シバのことを「笑顔が歪んでいる人」という。
それでもルイはスプリットタンに「血が騒ぐ」
アマは普段はおとなしいが、殺したいと思ってしまうと殺すまでやってしまいかねない。
そして起きた事件
殴り倒した奴の2本の歯
それをルイに渡し「愛の証」
最後にルイはその歯を瓶で粉にして飲み干す。
それは「アマの愛の証は私の体に溶け込み、私になった」
まるで人類創生時の宗教観だ。
この原始的感覚こそ、今のルイの感性
ルイの感性は現代とかけ離れているのかもしれないが、原始まで退行しているともいえる。
ルイのタトゥの龍と麒麟は、もちろんアマとシバ
「私自身が命を持つために、この龍と麒麟に目を入れるんだ」
それがこのタトゥの揺るぎない意味になった。
割と明確な自意識を持つ二人に対する「私も」という思い。
自殺願望のあったルイは、このタトゥによって生きる決断をしたのだろう。
「アマを犯したのも、殺したのもシバさんであっても、大丈夫」
この作品の中で最も理解しにくい箇所だ。
ルイは警察の調査の進捗状況を聞き、犯人はシバではないかと思う。
しかし、それを打ち消すように「お香」を買いに出かけた。
この時すでにルイはそう決めていたと思われる。
シバとアマとの交わり
アマとルイとの交わり
シバとルイとの交わり
この3人は、おそらく一つなのだろう。
シバはルイに言った。
「死ぬときは俺に殺させてくれ」
アマはルイに言った。
「自殺するなら、俺に殺させてくれ」
ルイは思ったのだろう。アマとシバも同じ会話をしていたはずだ。
人を殺す気持ちよさについてシバは語った。
実際人を殺したアマ
この狂った思考に引き寄せられるルイ
痛みや死の対極にあるのが快楽と生
対極のコントラスト
アマの事件を知ったシバは、少々嫉妬したのかもしれない。
相手の首を絞めて苦痛を与えなければ快感を得られない性癖
アマが人を殺したことを想像しながらアマに苦痛を与える快感
アマが人を殺したということを知ったシバの頭の中は、そのアマの快感を自分も味わいたくて味わいたくてどうしようもなくなったのかもしれない。
ルイも初めはアマが殺されたことによるショックが大きかったが、それをしたのがシバだと気づいてから、私たち3人は同じだということを悟ったのだろう。
「私はこれを求めてたんだろうか? 無様にぽっかり空いた穴を求めてたんだろうか?」
ルイは自分の舌を見ながらそう問いかける。
シバの謎の夢
「5,6人に囲まれて歌われた怒りの歌」
そしてルイは思う。もっとピアスの穴を大きくしたら、人生の川の流れも拡張されるのだろうか?
しかしその考えは虚しさを助長したのだろう。
冒頭と同じ渋谷の街
歩いている方向は冒頭と反対方向のようだ。
横断歩道でしゃがみこむルイ
そこにあるのは、冒頭よりもっと深くなった虚構
もの悲しい歌とエンドロール
ルイは、
彼らとの出会いの中で「いい」と思えたことのすべては、虚構しかないことを認めざるを得なくなったのだろう。
それがしゃがみこんでしまうという動作に現れている。
身体に穴をあけ、ピアスなどをしてみても、体中にタトゥを入れてみても、「私自身何も変わることなどできなかった」
ルイは、確かに真剣に一生懸命だった。
でも、そこには何もなかった。
シバの変な夢の告白は、
彼の行いがもたらしたのは、他者からの「怒り」でしかなかったのかもしれないと、ルイはしゃがみ込みながら思ったのかもしれない。
今の自分自身の在り様や居場所を手探りながら「闇の中に光」を求めてしまう若者の姿をリアルに表現したのだろう。
凄すぎてついていけない。
勝手な妄想でしか読めない。
手に負えないほど難しかった。

R41
琥珀糖さんのコメント
2024年8月25日

コメントありがとうございます。

怒られそうですが、分かろうとするから、
難しいのではありませんか?
感覚で感じる・・・音楽や絵画のように。
私は多分10年位前に観ました。
吉高由里子がヌードになっている・・・
それが鑑賞動機です。
高良健吾が鋭角的で吉高さんより
美しかったのを覚えています。

原作者の金原ひとみさんを見たとき、猛烈に反発を
覚えました。
スタイルが良く小顔で金髪・・・なよっと立つ姿。
19歳の彼女は別世界の人でした。
理解する必要はないと思います。
別世界いだから・・・。
R 41さんが書いています。
「私自身が命をもつために、この龍と麒麟に
「目を入れるんだ」
この言葉が、「蛇にピアス」なのでは?

☆☆☆私の言葉なんか、なんの役にも答えにもなりません。
人それぞれ、100人観れば100違う感じ方があると思います。

琥珀糖