劇場公開日 2008年2月2日

ラスト、コーション : インタビュー

2008年2月1日更新

アメリカ生まれで本業は歌手。これまでも映画出演の経験はあるが、アン・リーという世界から注目を集める名匠の大作に、主要な役柄で出演するのは初めてのこと。役者として多くのことが試された彼に話を聞く。(取材・文:佐藤睦雄)

ワン・リーホン インタビュー
「地獄のような体験でした(笑)」

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――アン・リー監督作品で好きな映画は?

「全部好きで見ています。『グリーン・デスティニー』の頃から、リー監督とは個人的に親しい関係で、いろんな映画のバックステージを見せてくれたり、また僕の音楽もサポートしてくれて、新しいアルバムが出るたびに監督に渡したりしていますしね。『ブロークバック・マウンテン』の時も、オーバーダブ(声にダビング)をしている最中にうかがったりしていました。彼は、新しい世代の中国人アーティストに対し、何かを教えようとしてサポートを惜しまない方です。実際、役はもらえなかったけど、『グリーン・デスティニー』のオーディションを受けているんです(笑)。ですから、若い役者志望の方に申し上げたいのですが、絶対にあきらめないことです。いつかいいことがありますから」

――アメリカ育ちのあなたにとって、初めての中国語作品ですね。今後は俳優業にも比重を置くのですか?

俳優として大役に挑んだ ワン・リーホン
俳優として大役に挑んだ ワン・リーホン

「将来的にはもっと映画に時間を割いていこうと思います。ですが、ミュージシャンは絶対にやめませんよ。撮影中は中国語のセリフだったし、過酷すぎて、俳優なんてやってられないという心境だったのですが(笑)、終わってみると撮影の楽しさばかりがこみ上げてくるんですね。また、撮影中の9カ月間はコンテンポラリーな音楽、ヒップホップやR&Bとかは一切聴かず、役になりきろうと、1930年代当時の愛国的な歌ばかり聴いていました。そして撮影が終わって自分の音楽を作ろうとした時、その影響は色濃く現れてきましたね」

――何が変化したのですか?

「いろんなことが変わりました。俳優として他の人になるというのは貴重な経験でした。音楽をやっていると、そういう感覚はないもんですからすごい体験でした」

――“視線の映画”だと思うんですが、タン・ウェイ演じるヒロインへの片思いの感情をカメラに向かって表現するのは大変だったのではないですか?

「ええ、地獄のような体験でした(笑)。こうしなさいというアドバイスをもらうというより、そういう状況が用意されているという感じですよ。アン・リー監督は常に『目はウソをつけないからね』とだけ言って、そういう視線ができるまで待って待って待ってくれたんです」

――カメラマンのロドリゴ・プリエトはそうしたワン・リーホンさんをどんな風にとらえていたんですか?

「プリエトさんは素晴らしくて、存在を消してしまうんです。だから、自然な演技ができました」

――アン・リー監督も絶賛する殺人の場面では、どんな気持ちでしたか?

苦労の連続だったが、大きな収穫となった
苦労の連続だったが、大きな収穫となった

「ひどい気分になりました。僕はベテラン俳優ではないので、方法論を持っていないんですね。ですから、役になりきるしか方法がないわけです。たとえば、僕が演じた男は、自分の好きな女性が他の男と寝ているのを知っている。恋したことがある男性なら誰でも知っていることでしょうが、ひどい気分ですよね。それを3年間も味わっている。そうした気分を目で訴えるしかない。あるいは殺人のシーン。あれは男の子が男になる瞬間でもあるわけです。人を殺して、少年時代の無垢さとおさらばする場面なんです。アン・リー監督は3テーク撮りましたけど、それは僕がボロボロと泣いたからなんです」

――3回首をしめたわけですね。

「ええ。あの殺される役の人はスタントコーディネーターなんです。あの殺される一連のシークエンスを、彼が演出していました。だから、首を絞められるのは慣れっこなんですよ(笑)」

――撮影中、体重が落ちたと聞きました。

「5キロぐらい痩せたんですが、それは撮影が大変だから痩せたわけでなくて、脚本に1行、『3年後、彼は痩せて、肌も黒くなっている』と書かれていたからなんですね(笑)。今回、キャラクターを演じることは大きな挑戦だったけど、楽しかったですね」

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