ラスト、コーション : 映画評論・批評
2008年1月22日更新
2008年2月2日よりシャンテシネ、Bunkamuraル・シネマにてロードショー
嘘の世界とリアルな肉体的性愛を対比させたアン・リーの“問題作”
すでに開始から5年が経過しようとする戦争の渦中にあって1942年の上海は実質的に日本の支配下にあり、その手先である現政権は抗日運動を企てる自国民に厳しい弾圧を加えている。本作のヒロインは激しい時代の流れの中で抗日運動に身を投じ、女スパイとして弾圧側のスパイ組織のボスに色じかけ(?)で接近、彼の心をつかむことに成功するが、見せかけであったはずの彼らの恋愛がいつしか本物のそれと見分け難くなる……。
アン・リー監督の最新作は前作「ブロークバック・マウンテン」に引き続き“禁断の愛”を鮮烈な性描写も交えて描く“問題作”だ。たぶん本作で僕らが目撃する性描写は、作戦のための見せかけの恋愛……といった人間の心理的動機の不確かさや弱さを際立たせるために必要とされるのだろう。実際、現政権側の人々によって享受されるブルジョワ的な快適生活は同胞を弾圧し敵国日本の保護を受けてのみ可能な“見せかけ”であり、この映画での上海全てが嘘で固めた世界でさえある。そんな中、ただ男女が裸で渡り合う肉体的性愛のみがリアルな次元にあるのだ。ヒロインとその演劇仲間がいきなり過激な抗日運動組織へと変貌する前半の展開も魅力的だ。彼らはまるで遊戯やお芝居に興じるかのように革命集団になる。40年前に撮られたジャン=リュック・ゴダールの傑作「中国女」での毛沢東に憧れるパリの学生たちのように……。
(北小路隆志)