「西田俊行が熱演!でも鋭い推理で巨悪を追い詰めるというシーンが見られなかったことが残念。」相棒 劇場版 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0西田俊行が熱演!でも鋭い推理で巨悪を追い詰めるというシーンが見られなかったことが残念。

2008年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 5月1~3日の3日間ですでの50万人以上の人が「相棒-劇場版-」を見たそうです!まずはヒットおめでとうございます。

 小地蔵もすっかりテレビシリーズのファンなってしまって、いろいろなお約束ごとを頭に中にインプットされてしまっているので、映画作品として客観的に見られないことをお許しいただきたいと思います。

 さて、上映会場を間違えたかと焦ってしまった冒頭の海外シーンから始まって、大群衆をエキストラに起用した東京ビッグシティマラソンのシーンなど、劇場版としてスケールの大きさを感じさせました。
 ほぼ半分レギュラー化してきた片山議員、瀬戸内元法相、美和子の元浮気相手で院内紙記者の鹿手袋、敏腕弁護士武藤かおり、元特命係の陣川公平などなどシリーズ主要人物のオールスターといったキャスト、ファンには嬉しい面々です。
 初めて見る人には、展開の速さと右京の推理の飛躍に、少々戸惑うかも知れません。犯行がチェスに擬えて、マラソンまで行き着くところは、強引な設定と思います。
 突っ込みどころとしては、ストーリーラインが『相棒』よりも、『純情派』に近いものになっていて、鋭い推理で巨悪を追い詰めるというシーンが見られなかったことです。割とあっけなく犯人が分かってしまうのは問題ですね。
 それとビッグシティマラソン自体にもっとクライシスが欲しかったです。
 あと上層部との軋轢も、今回はすんなりと収まっています。伊丹刑事も、今回は薫と協調的です。シリーズの「お約束ごと」があまり出てこないところが、ファンにとって物足りなさを感じてしまうところでしょう。
 けれども、本作では思わず犯人の涙に同情してしまう、いいオチに仕上がっています。いつもは激しく犯人を糾弾する右京も、この犯人を叱る時には、優しさを見せていました。あの叱り方は良かったですね。
 対する西田敏行の熱演も印象的でした。政府によって息子を事実上見殺しにされた、西田が演じる父親の悲嘆ぶりには、ホロリとさせられましたね。
 ハートにジンと来るラストを持ってきたことで、『相棒』入門編として、初めての人でも充分楽しめる作品として仕上がったといえます。

 また、本作では社会派エンターティメントとして、今回もきちっとしたメッセージを残しています。シリーズは一貫して官僚たちの身勝手さが原因となって事件が起こる設定が多いのですが、今回も外務省の怠慢から、海外でボランティア活動していた青年が、ゲリラの犠牲となってしまうことが描かれています。
 もしかしたら本当に起こるかも?と想起させるような、リアルティーを持って描いていることがこの作品の持ち味なんだと思います。
 加えて、マスコミの報道被害やネットの口コミによる風評被害にあった方の無念さもよく描けていました。犯人の動機においては、今公開中の映画『ブラックサイト』が描く世間の無関心さ、無責任さと共通する面があるのではないでしょうか。

 最後に、いつも和服のたまきが、珍しくジャージ姿で登場していて新鮮でした。

流山の小地蔵