「ピアース・ボンドではベスト。内緒だけど」007 ワールド・イズ・ノット・イナフ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ピアース・ボンドではベスト。内緒だけど
シリーズ19作目。1999年の作品。
20世紀最後の007。
ボンドはある組織に奪われたMの旧友である石油王キング卿の大金を奪回するも、それには罠が仕掛けられ、卿は爆死。MI6本部も被害を被る。
実行犯の女暗殺者を追うも、自殺。ボンドも肩を負傷してしまう…。
恒例のプレ・シークエンスだが、シリーズ最長の約15分!
スイス銀行でまず一幕、そして本作の大きな見せ場の一つであるお膝元のテムズ川での激しいボート・チェイスは冗談抜きにアクション映画一本分の見応え!
(ちなみに、シリーズ最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のプレ・シークエンスは本作を超える約20分になるとか)
主犯と目されたのは、国際テロリストのレナード。009に頭部に撃ち込まれた銃弾によって、痛みを感じない身体となっていた。
またレナードは、かつてキング卿の娘エレクトラを誘拐。再び彼女が狙われる危険性があり、ボンドは父に代わって石油パイプラインの指揮を取るエレクトラの護衛に付く…。
何と言っても本作は、このボンドガールに全てを持って行かれる。
ソフィー・マルソー!
シリーズレビューでボンドガールに触れる時、度々同じフレーズを引用して恐縮だが、だって今回は本当に、
圧倒的な美貌、圧倒的な魅力!
ひと度画面に出れば華となる存在感。
父に成り代わり事業の指揮を取る凛とした逞しさ。
その一方、未だ誘拐事件の後遺症残るか弱さ、儚げさ…。
着飾る衣装も魅力的。ベストは、クライマックスで着る上半身が透け透けのドレス。
男なら誰もがイチコロだろう。
ボンドも然り。当然の如く二人は恋に落ちる。美しく官能的なソフィーの裸体もたっぷり堪能。
この時のエレクトラの台詞。「こうなると思っていた。初めて会った時から…」
最初は恋に落ちた事だと思うが、終盤になると別の意味合いにも…。
レナード役にロバート・カーライル。痛みを感じぬテロリストを、狂気と悲哀で怪演。
ボンドに協力する核研究博士にデニス・リチャーズ。公開時から散々言われた、全くそうは見えず。役設定よりデカパイが目立ってしまい…。ラジー賞受賞となり、デニス自身も当時から役所に疑問を感じていたというが、もう一人のボンドガールとして魅力は振り撒いていたかな…?
ソフィー、カーライル、デニスの3人に、レギュラーのピアース、デンチ、準レギュラーのロビー・コルトレーン。
キャストの豪華さはピアース・ボンド随一だろう。
アクション一色だった前作と比べると、見せ場の連続や派手さや迫力には欠ける。
でもその分本作は、ドラマ部分で見せる。
核廃棄場を急襲し、核弾道を奪い去るレナード。キング卿のパイプラインを使って、爆破させる計画を企てていた。
が、そこに、思いもよらぬ黒幕が。
エレクトラ。
誘拐時、身代金を払わなかった父と尽力するも助け出してくれなかったMを逆恨み。
穢れの無い乙女が誘拐犯に惹かれる、ストックホルム症候群。
全てはこの二人の陰謀。一見エレクトラがレナードに惹かれているように見えるが、実際はレナードがエレクトラの色香に心酔しているように見える。
エレクトラはMをも誘拐。
レナードは原子力潜水艦を奪い、核弾道で大爆発を目論む。
果たしてボンドは陰謀と、愛した女の暴挙を止められるのか…?
ボンドは陰謀を阻止する。だが、それは同時に…。
シリーズ初のボンドガールが敵。
そして、ボンドがボンドガールを射殺する…。
ボンドガールが敵によって殺される『女王陛下の007』とは違う悲しさ…。
前述のエレクトラの台詞は、この事を予見していたのかもしれない…。
国際テロリストに核の危機に石油利権争い。
男女の愛憎関係。
ソフィー・マルソーの魅力。
ピアース・ボンドの中で最もシリアスで、アクションだって要所要所抑えている。
個人的に、ピアース・ボンドのベスト。内緒だけど。
最後に、絶対に語らなければならない、小さいけど、大きな別れ。
第1作目から数々の名(時には迷)秘密兵器を開発し、ボンドともユーモラスなやり取りで楽しませてくれたQ役のデズモンド・リューエンが死去。本作公開後、交通事故死。
老いて俳優業引退を考えていた矢先の事で、劇中でもそれを仄めかすような台詞が。退場シーンが印象的。
ボンドが世界を救っても、あなたナシでは不足。