「今回はMがかなりフューチャーされております」007 ワールド・イズ・ノット・イナフ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
今回はMがかなりフューチャーされております
ピアース・ブロスナンのボンド役3作目
正に油が乗っているとはことこと
製作陣も乗りに乗っているのが映像から伝わります
敵役が少々小振りなので補強としてソフィー・マルソーを持ってくるところは好判断
役柄の元々は清純な女性であったのだろうという設定に彼女のイメージが重なって説得力が増しています
なにより彼女が写っているだけで絵になる
流石に大スターはやはり違います
今回もテムズ川でボートチェイスなどアクションも気合いが入っていて、同じようなシーンは過去作で観ていてもやっぱり凄いとねじ伏せてくれます
テーマも冷戦が終結し、ソ連崩壊後のKGBがどう生き残ってマフィア化して、さらに石油とどう結び付いているのか、そこに中央アジア諸国のテロリストがからんで、戦略核廃棄の状況ともリンクさせるという
当時最高にホットな世界情勢ネタですから、そのリアリティーある現実世界を舞台にする事でボンドというファンタジーがより一層活きる訳です
製作陣も冷戦後のボンド映画のコツがつかめて来たようです
2000年問題ネタやミレニアムドームも当時の旬のネタ
これらを出すくらいですから、アゼルバイジャンのバクーが舞台なら、当地の最大の観光地の乙女の塔も臆面もなく当然出す
もう開き直ったかのようなサービス精神満載の製作態度が嬉しく心地良いです
Q役のデスモンド・リュウェリンは85歳の高齢でついに本作で勇退
それを印象づける台詞とシーンで退場していきます
19作中17作出演のシリーズ最長の出演者でした
本作公開直後に交通事故で死去したといいます
今回はMがかなりフューチャーされております
なにしろMの娘が登場するのですから!
それを知っているのは両親であるMとキング卿、途中で気付いてMを問い詰めるボンドだけです
本人すらキング卿の結婚相手のアゼルバイジャンの女性の娘と思いこんでおり、悪事に染まる原因のひとつになるのが哀れです
遂にはボンドに殺されてしまうのです
そして直後に母であるMがその現場を目撃することになってしまうのです
そう娘を作るほどM女史とキング卿とは若かりし日々に恋仲だったのです
未婚のままだったのかもしれません
別れた理由は明らかではありませんが、キング卿がバクー油田の利権で政略結婚したからかもしれません
それでも今も二人の仲はよろしいようです
しかしその色恋、娘の両親というだけでなく、オックスフォード大学の同窓と云うところに何かもっと深い因縁がありそうな思わせ振りな台詞と展開です
40年位昔の話でしょうから 、1963年にソ連に亡命したフィルビーのスパイ事件における、ソ連がケンブリッジ大学のイギリス上流階級の同窓生で作ったスパイ組織ケンブリッジ・ファイヴを彷彿とさせます
そう考えると冒頭の銀行の舞台がスペインというのも意味深です
というのもイギリス最大のスパイ事件フィルビーはMI6局長にもなろうかという人物で、MI6に入るきっかけはスペイン内戦時代のジャーナリストとしての経験からなのですから
なぜ始まりがスペインなのか?
そしてなぜケンブリッジではないもののオックスフォードの名を唐突に出すのか?
このケンブリッジファイヴ事件との関連をほのめかす意図が有ったのではないかと思います
このようにああ、凄かった!面白かった!というだけの映画で終わらずに、深読みすればさらに面白いというところが、本作をより一層面白い映画にして、長く鮮度を保つ魅力の源泉になっているのでは無いでしょうか?
ただし核に関する扱いはわざと雑に作っているようです
セットや小道具の考証から 知識がいい加減なのではなく敢えて無視しているのでしよう
シリアスになりすぎますから
プルトニウムは半分どころかほんの微量で人間は死にます
あの小爆発でも半径数十キロは半永久的に人間が住めなくなっているでしょう
もちろんボンドとクリスマス嬢は被曝とその猛烈な毒性で即死してしまいます
燃料棒を素手で挿入なんて、その前にあっという間に被曝して死んでいます
しかし原子力潜水艦のメルトダウンは阻止したものの原子炉に注水した結果、水素爆発して沈没してしまう
そのシーンはなかなか正確
だって、そのままのことが日本の原発で現実に起きてしまっているのですから
現代の我々は否応なしに核の知識に詳しくなってなってしまっているということなのです
つまり007の映画よりも、シビアな現実に私達は生きているのです
解説ありがとうございました。読んで、「なるほど!」と思うことばかりでした。特にMとその娘のこと。
そうだったんですね。もう一度見てみようかなあという気になりました。