「ゆったりとした独特の間、『西の魔女が死んだ』に負けないくらい癒される映像です。」山のあなた 徳市の恋 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ゆったりとした独特の間、『西の魔女が死んだ』に負けないくらい癒される映像です。
石井監督が、盟友の長尾監督(アルゼンチンハバアなど)から、清水宏監督の『茶の味』を観るよう勧められたのが4年前のことだったそうです。
『茶の味』のなかで、自分が目指す演出方法との接点を見出したとか。その接点とは、
まずは、人の目の高さにカメラを据えたアングル、
自然光を活かしたロケーション映像、
登場人物のナチュラルな描き方、
時間経過を示すだけでない風景の挿入、
画面に漂うリアルさ・・・etc。
それらですっかり石井監督は清水監督の虜になったそうです。
清水監督に惜しみない敬意を払い、リメイクでなく、完全カバーとして完成したしたのがこの作品です。
そのこだわりは、全シーンを石井監督が全部絵コンテにして、デジタルインポーズし、カット割りや所作、立ち位置がオリジナルと同じになるよう復元するという徹底ぶりでした。
出演した草彅がもっとも好きなシーンにあげた冒頭の山の温泉場へ赴くシーンは、新緑の萌えるような緑の山道の映像が大変美しく、山のオゾンが香ってくるような映像でした。同じく緑の多い『西の魔女が死んだ』に負けないくらい癒される映像です。
映像美だけでなく、長回しを多用したオリジナルを踏襲し、ゆったりとした独特の間を作り上げています。そのため台詞も聞きやすく、そんなに画面に集中しなくてもスジについて行ける作品になっています。
この作品には堤真一も出演していますが、彼が主演する7月公開の『クライマーズ・ハイ』でこの作品を比べると、同じ俳優でも台詞の聞き安さに天地の差が出ています。
現代の邦画作品はアップテンポのものが多く、カット割りも短めで、セカセカした作品が多くなっているのではないでしょうか。そんな作品に慣れ親しんでいる映画ファンにとって、清水監督の長回しの世界はホットさせるところがあります。
印象に残った点として、やはり草薙が盲目の按摩徳一になりきっているところです。すごく説得力のある演技でした。半目の目つきですたすたと歩く演技は怖くなかったのでしょうか。
それと、『見えない目で、あなたを見つめていた』という映画のコピーですが、実際に台詞として画面に出てきたとき、その意味の深さに思わずジーンとなりました
また、監督も好きなシーンとしてあげていたのが美穂子と徳一が温泉街ですれ違うシーンなんです。このシーンは清水監督も思い入れが強くあったようなのです。徳一の美穂子への思い入れの強さとそれをからかい気味にかわす美穂子の色気を感じました。やはり見所ですね!
ちなみに、この温泉街は1/2スケールの模型だそうです。VFXで人物と背景を合成しているようなのです。最先端の映像技術と古典的演出がコラボして不思議な光景を生み出しているなと思えました。
さらにラストの徳一が美穂子を問い詰めるところでは、長い台詞の応酬が続きますが、二人の熱演に、ああこれが映画の醍醐味なんだぁと堪能しましたよ(^。^)
あと、研一役に出ている広田亮平クンの悪ガキぶりもなかなかでしたね。よいこは、研一みたいに、盲目の人の鼻に鼻紙を丸めたこよりでこちょこちょして、クシャミさせるなんて真似は止めましょう(^^ゞ
最後に、盲目であることからその所作に思わず笑ってしまうシーンもありました。けれども原案を考えた清水監督は、「自分はすごいんだぞ」と何度も徳一に語らせて、健常者に負けない自立した障害者の姿を温かい目で見つめているのではないかと思えました。