劇場公開日 2008年4月26日

「若手俳優の頑張りも、過剰な「イメージ映像」や成長後の背景があいまいなところがあるのが勿体ない。」砂時計 ジョルジュ・トーニオさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0若手俳優の頑張りも、過剰な「イメージ映像」や成長後の背景があいまいなところがあるのが勿体ない。

2008年4月27日

泣ける

<ストーリー>
杏は父の事業の失敗で、母と共に母の実家に引っ越しすることになる。祖母が母を叱咤激励するのに嫌気がさし外出するが、村では彼女たちの話題でもちきり。そんな中、大悟という少年がぶっきら棒に話し掛けてきて、彼の働く酒蔵の手伝いをさせられる。最初は反発する杏だが、大悟の不器用な優しさに気付き、田舎の大自然にも包まれて、次第に心を開いていく。しかし彼女の母が失踪し・・・

<個人的戯言>
役者の名前は松下奈緒が上になっていますが、主なストーリーは夏帆演じる中高生の頃の杏の話が中心です。現在出ずっ張りの彼女は、複雑な事情を抱える主人公の心情の変化を、見事に演じていますし、相手役の少年時代の大悟を演じる俳優も、13年ほど前の田舎の男子中高生の純真さがよく出ていました。最初に二人が接近していくまでを、もう少し時間を掛けて、主人公・杏の心境を表すのに使われる、過剰な「演出」がなければ、もっといい作品になった気がします。

大人になった主人公・杏の回想の形で始まるストーリーの大半は、彼女の中高生時代に費やされます。家庭でのことや、そのことが大悟との関係に影を落とすことで、心が揺れ動く役を、夏帆が時に激しく、また徐々に変わりゆく心境の変化を、実に丁寧に演じています。また相手役の少年時代の大悟を演じる池松壮亮も、当時の田舎の男子中高生のまっすぐな純真さを好演しています。

それと比較すると、大人になった二人の話は、時間が限られていたため、詳しいエピソードもなく、いきなり約13年もの月日が流れてしまっていることもあり、辿り着く心の終着にやや唐突な印象が拭えません。松下奈緒も最後は悪くないものの、その心の動きを演じ切れてるとは言えない感じ。ウェディング・ドレスの試着の時の顔は、かなりな変顔になってました・・・

ストーリー展開的には更に、主人公二人の接近がやや早過ぎるところが気になりました。逢ってまもなく「事件」が起こり、その時にはもう「誓い合う」仲みたいになるのは、ちょっと違和感があります。ここはもう少し時間を掛けるか、もう少し説得力のあるエピソードが欲しかったところです。

また杏の心情を表す「映像的」演出がかなり突飛的なため、そこでも「いきなりホラーかよ!」的印象を持ってしまったため、スムーズに主人公の心情に寄り添うことが出来ませんでした。あんな「イメージ映像」などなくても、役者の演技と過去シーンのフラッシュバックくらいで充分表現出来るものを、小細工することでかえって変な印象を与えるのは、先日観た「チェスト!」でもありました。アイデアや技術の罠に陥り、まともに演出することが「古い」とでも思っているのでしょうか?まっすぐ演出しても惹き付けるものがあるのが、本当にいい作品であると考えます。こんな作品に、松下奈緒は縁深いようで・・・

ジョルジュ・トーニオ