「徹底した作り込みに感動」潜水服は蝶の夢を見る みちすうさんの映画レビュー(感想・評価)
徹底した作り込みに感動
片目の瞬き以外はほぼ体を動かすことのできない男性が”生きる”ことを全うしようとする話。
まず、作品前半は主人公の視線で映画が進んでいく。
眼球の瞬きやこみ上げる涙などがそのまま映像に映り込んでくる。
非常に視覚的には不鮮明で少し気分が悪くなるほど歪んだ映像だ。
物語が進んでいく中で一般的な映画同様、第三者目線での映像描写が増えていく。
これは、はじめは変わり果ててしまった自分を受け入れられず、家族と会うことも鏡を見ることも拒んでいた主人公が徐々に現実を受け入れ、ついには執筆活動によって自身を表現することで生を全うしようとする決意の表れを示していると思われる。この映像表現はとてもシンプルで伝えたいことも非常にわかりやすいが、主人公視点の映像の作り込みが尋常ならざる所業であるために、本来より効果的に作用していたと感じる。たとえ子供がこの映画を見たとしても、冒頭の靄がかった主人公視点の映像から鮮明な第三者視点の映像に切り替われば直感的に希望的方向へ向かっていることを理解できるだろう。
また、喋れない主人公に対してアルファベットと瞬きを用いたコミュニケーションの手法が登場するのだが、序盤と終盤で明らかにそのコミュニケーション速度が速くなっており、そういった些細な描写から時間経過や人間関係の変化を繊細に表現する手法は個人的に大好きだ。
役者陣の演技力の高さはあえて言うまでもないだろう。
またいつか見返したくなる映画だった。
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