「劇場は夢見る女性でいっぱい、でした」人のセックスを笑うな こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
劇場は夢見る女性でいっぱい、でした
平日の昼間にも関わらず残席僅少との掲示に驚きながら映画館に入ると、満員の客席の九割が女性。男ひとりなど私くらい。ちょっと異様な光景に見えたのだが、映画を見終わってその理由がわかった。この作品は、恋をすることを楽しめる、女性たち皆が夢を見られる時間が体験できるのだ。
この作品は、永作博美演じる39歳の美術教師と松山ケンイチ演じる21歳の男子生徒との、歳の離れた恋愛が成就するか否かという物語で、それ以上は何もない、それほど内容のある映画ではない。しかしそれでも面白い、と感じられたのは、歳の離れた男女が恋をする、恋することを楽しむ様子が、じっくりと描きこんでいる、この作品の監督井口奈巳の演出手腕の確かさによるものだ。
この作品で井口監督は、長いワンシーンワンカットを多用している。つまり、それだけ映画に流れる時間がゆるやかなのだが、そのいくつもの長いカットの中で秀逸だったのが、主人公の美術教師と男子学生とが徐々に心が惹かれあっていく様子を実に小気味良く、そしてじっくりととらえていたことだ。つまり、長いカットの中で恋する時間がゆっくりと流れていて、見ている者たちもお互いに感情移入しながら一緒に恋をする瞬間を感じさせてくれる。そこに、この作品が多くの女性たちに人気を集めている要素がある。
ただし、多くの女性たちがいくら感情移入しても、この作品で描かれた恋愛模様は、コケティッシュな魅力を存分に発揮した永作博美と、シャイでいながら女性の心を惹きつける魅力を醸し出す松山ケンイチという二人でないと、ちょっと成立しそうにもないとは思う。映画に奥深さを求めたり、監督に主張を求める人にはこの作品の評価は低いかもしれないが、映画館とは夢見るひとときを楽しむ場所だとすれば、多くの女性たちを恋する時間に惹きこませたこの作品は、ある意味、とても映画らしい映画ではないかと思う。