「悔いは感じられない」イントゥ・ザ・ワイルド kakerikoさんの映画レビュー(感想・評価)
悔いは感じられない
原作は未読なので、この作品だけを観て感じたことを書きます。
意識ある人が死の直前に、何を感じ、何が瞼に浮かぶのだろうか~と考えたりしませんか。最後に思う人が誰なのか、どんな記憶が蘇るのか・・自分だったら…と漠然と考えたこともあります。この作品の主人公の生き方はあまりにもストイックで、、若さ故、周りが見えない部分(よって共感に値しない部分)もありますが、それこそが未熟な若さなのであって、そこを身勝手だとか無謀・無知だとか非難するのはふさわしくない気がしました。それよりも、彼は自分の人生に対する挑戦者でありつづけようと思ったのだと考えます。社会の枠組みから抜け出し、最果ての地、アラスカでどこまで自分がやれるかを試す心積もりがあったのではないでしょうか。その時々、自分がやれるだけのことを精一杯やる姿が年齢どうこうというよりは、頭でっかちな博識者よりも優れた点だったと思いました。口で言うは易し、それを行動に移すのは容易いことではないと誰もが知るところです。別の言いかたをすれば、彼は「自分の人生を生き切った」のです。悔いはないはずです。なので、最後の最後に浅はかな過ちによって死を招く結果となっても、あの流した涙は悔し涙ではなく、美しい青い空を眺めながら、否定してきた父母との抱擁を思い描き、心穏やかに死を受け入れられたと思いました。
彼が愛読していた数冊の本、中でもトルストイの「家庭の幸福」に自らの境地を記します。 「幸せは誰かと分かち合うことで本物になる」
こう思えたのは、アラスカにたどり着くまでの道すがら出逢った様々な人。暖かく彼を受け入れ、また送り出した人たちのお陰だと思うのですが、主人公同様、どこか孤独を背負って生きている人たちだったのが印象的でした。
クリスは旅においてあらゆる経験をすることによって、体感する歓びのなかに身を置きたかったのではなかったのかな。知識に経験が追いついた時、その言葉の本当の意味を知るということ。彼の「自分探し」は旅に出ることで成就されましたが、生きることそれ自体が、旅のようなもの・・という思いが私の頭をかすめます。一つ一つの経験が満たされる時に、自分がどのように変われるのか、変わっていくのか、そんなことを思ったら、日常の何気ない行動にも、重い腰が、止まっていた足がふっと前に出せそうな、そんな気がしました。死すら、新たな旅立ち。。その時に自分が何を思うのか、やはりそこが気になります(笑)