「ワイルドで行こう! でも知らない野草、山菜は採らない、食べないで!!」イントゥ・ザ・ワイルド たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
ワイルドで行こう! でも知らない野草、山菜は採らない、食べないで!!
伝説のホーボー、”アレグザンダー・スーパートランプ”ことクリス・マッキャンドレスの生涯を描いたロードムービー。
監督/脚本/製作は『ゲーム』(出演)、『I am Sam アイ・アム・サム』(出演)の、レジェンド俳優ショーン・ペン。
ヒッピーの少女、トレイシー・タトロを演じるのは『パニック・ルーム』『ザスーラ』の、名優クリステン・スチュワート。
クリスのサバイバルの師、ケヴィンを演じるのはテレビドラマ『トゥルー・コーリング』のザック・ガリフィアナキス。
第65回 ゴールデングローブ賞において主題歌賞を受賞!
原作は登山家兼ノンフィクション作家ジョン・クラカワーの「荒野へ」(1996)。この本で紹介された事により、クリス・マッギャンドレスは耳目を集める事となる。これは未読であります。
アメリカ中を流離う渡り鳥「ホーボー」。今で言う「バックパッカー」や「ノマド」に近いが、それよりもより自由でハードな生き方を選んだ人々の事を指す、ような気がする。実態はよくわからないけど。
とにかく、何者にも縛られないその生き方は人々の憧れの的になり、多くの文学や音楽に影響を与えたのは事実である。
クリスもそんなホーボーの1人。有名なホーボーはたいてい何かしらの芸術作品を残しているものである。例えばジャック・ロンドンは「野性の呼び声」(1903)、ジャック・ケルアックは「路上」(1957)という傑作小説を残しているし、ウディ・ガスリーはフォークシンガーとしてボブ・ディランなどに影響を与えている。
しかし、本作の主人公であるクリスという男は、特になんの功績を挙げる事もなく伝説の男になっちゃったのだから面白い。この人山奥のバスの中で死んだだけじゃん!!
とはいえ、1箇所にとどまる事なくブラブラと彷徨うホーボーの精神性から考えると、偉大な作品を遺して歴史に名を刻むより、こういう感じでただただ野垂れ死ぬ事こそが彼らにとっては正しい人生の幕の下ろし方なのかも知れない。
個人的に、本作はめちゃくちゃ濃いブラック・コメディとして楽しむ事が出来ました。だってあんだけ「アラスカの大自然を自分の力だけで生き抜くんだ!」とか「孤独な部屋や工房から飛び出して新たな挑戦をするんだ!」とか吹かしておきながら、川の氾濫で閉じ込められた挙句、間違えて毒草食って死んじゃうんだもん。
食べられる草の判断はできないし、ヘラジカの肉は腐らせちゃうし…。とにかくこのクリスという男、自然を舐めきっている。河原でバーベキューする大学生かおのれは💦
そもそも自分の事をスーパートランプ(超すごい放浪者)と名乗っている時点で、この男のボンクラさが伝わってくる。現代なら普通にインフルエンサーやってそう。
というか、文明社会から抜け出す事を目的にアラスカの山奥にやってきたのに、そこに打ち捨てられていたバスの車内をホームベースにするというのはセーフなのか?それめっちゃ文明の遺産じゃね?
実際、クリスの人物像について賞賛する声もあれば無謀すぎたと非難する声もあるようだ。
監督であるショーン・ペンもその辺りのことは把握しているのだろう。本作のクリスは多くの人々と絆を紡ぎながらもそれを自ら断ち切り、どんどん孤独な死へと向かっていく物凄く愚かな人物とも、短い人生を全力で生き切った天晴れな風来坊とも受け取れるように描かれている。彼がただのバカなのかスーパートランプなのか、その捉え方は観客によって変わる事だろう。
ただ一つ言えるのは、ペンが彼に対してとても愛情を持っているという事。描写の一つ一つがとても丁寧で、彼へのリスペクトがヒシヒシと伝わってくる。ブラックな要素はあるが、それも含めてとても優しい映画に、仕上がっていると思います。
150分という長尺であり、ストーリー性はとても薄い。しかし、全く退屈する事なく鑑賞する事が出来るから不思議。
南はメキシコから北はアラスカまで。アメリカが有する大自然の壮大さと迫力は、ただそれだけで特大なエンターテイメントなのです。そりゃあクリスじゃなくたって旅烏になりたくなるわ。
一般的なエンタメ映画とは言い難い。物語も悲劇的だし。しかし、観るものを離さない魅力がこの作品には詰まっている。何度も見返したくなるロードムービーの名作です。
ちなみに、クリスの死後あの「不思議なバス」は観光名所となる。彼に共感する多くの旅行者が詰め寄せたのだが、辺鄙なところにあるため怪我人や遭難者が後を絶たず、さらには死者まで出るような事態になってしまった。
そのため、2020年に政府とアラスカ州兵はこのバスを輸送。今はアラスカ大学の博物館にあるらしいっす。クリスに憧れる方は是非観に行ってあげて下さい。
…にしても、この時のクリステン・スチュワート美人すぎじゃない?そりゃスターにもなりますわ。