「巨匠の老いを感じてしまった。」ロビン・フッド sigeさんの映画レビュー(感想・評価)
巨匠の老いを感じてしまった。
前置きをしておきますが、リドリー・スコット監督作は
大好きです。
もちろん「グラディエーター」以前も・・・。
多くの方の肯定的なレビューが
並ぶのですが・・・・
勇気を出して否定的な感想を書かせていただきます。
「グラディエーター」は公開初日に観に行き、
エンドロールでは胸が熱くなり、余韻を残した男魂に涙し、
6月にも関わらずオスカー受賞を確信しました。
後の歴史スペクタクルもののブームを作ったのは
間違いなくこの作品ですし、
今でもこの年のアカデミー賞は
ソダーバーグではなく、リドリー・スコットがオスカーを獲るべきだったと
思います。それぐらいの力作でした。
「キングダム・オブ・ヘブン」も公開初日に観に行き、
本国での興行成績不振の情報は入っていたにも関わらず、
劇場鑑賞時、至るところでそのビジュアルに感嘆した記憶があります。
もちろんディレクターズカットで更に好きになった作品です。
(むしろディレクターズカットこそ本当の「キングダム・オブ・ヘブン」です)
この2作品と比較すべきではない、単体で観なければならない、
そう肝に銘じて鑑賞しました。
それでも・・・
この作品を代表する“ビジュアル”が薄かったような気がします。
監督作品のDVDメイキングを見ると分かるのですが
ストーリーボードから手がけているくらいですから
ビジュアルにはかなり気を使われる監督です。
だからこそ、
前述の2作にあったように
CGで再現したコロシアムやフラッシュバックで現れるイメージカット(「グラディエーター」より)や
砂漠で渦巻く騎兵隊や対峙するボードゥアン4世VSサラディン、
ドミノ倒しになる移動式櫓(正式名称はなんと言うのでしょう・・・「キングダム・オブ・ヘブン」より)など
・・・その作品を代表するようなシーンがたくさんありました。
しかし、この作品からはそれらに匹敵するようなシーンは
私は感じることができませんでした。
たしかに、クライマックスに向けて
ロビン・ロングストライド(ラッセル・クロウ)の
“領主たる器”を描くシーンも大好きです。
丹念に描いていて自然な流れだと思います。
ウォルター・ロクスリー(マックス・フォン・シドー)との掛け合いや
マリアン(ケイト・ブランシェット)とのロマンスも自然ですし、
好感が持てました。
たしかにクライマックスの海辺での攻防は
熱く心に響くものがありました。
「プライベート・ライアン」を引き合いに出される方もいますが(それはその時代で・・・。)、
しかし、なぜか一番熱くなるシーンのはずが
矢の一本で、徹底的に苦境に立たされた諸悪の根源であるゴドフリー(「キングダム・オブ・ヘブン」では偶然なのか、リーアム・ニーソンが“ゴッドフリー”でしたね)を簡単に討ち取るとは・・・。
端的に言えば、全編においてカタルシスが足りなかったような気がします。
クライマックスへ向けて、ロビンが大演説を打つのですが
それも少々浅いように感じました・・・。
(「キングダム・オブ・ヘブン」にも言えるのですが・・・)
クライマックスのスペクタクルシーン(こういった歴史モノはこれだけではないですが・・・)
があまりにもあっさりしていたため
リドリー・スコット監督に対し
“老いを感じてしまう”“かつての勢いを出して欲しい”、
そういう想いで観てしまいました。
もしかすると
製作当初の
「ノッティンガム」は
また違ったテイストの作品になったのでしょうか。
うがった見方かもしれませんが
つい、そう思ってしまいます。
それでも、肯定的に感じたのは2点。
ゴドフリーを演じたマーク・ストロングと音楽のマルク・ストライテンフェルト。
マーク・ストロングは「ワールド・オブ・ライズ」あたりから
ファンが多くなりましたが
いつかオスカーを受賞しそうな風格はあります。
この映画での彼の貢献度が一番だと思います(名画にはアクの強い好敵手は欠かせないです)。
一方、音楽のマルク・ストライテンフェルトは
「アメリカン・ギャングスター」から注目していましたが(正直「プロヴァンスの贈りもの」では未知数でした・・・)、
テーマを要所要所で観客へ植えつけるその手法は
ハリウッド映画音楽界では若手ながら印象に残っています。
アメリカ本国ではDVD・ブルーレイにてディレクターズカットが発売されているため、
劇場で感じた違和感(なぜ“夫”を見送りながらも戦場にマリアンが出てきたか等)も解消されることでしょう。
しかし、しかし・・・
本作の先に待機している「エイリアン」プリクエル2部作に
一抹の不安を感じてしまった作品でした・・・
(H.Rギーガーがいるので大丈夫でしょうが)